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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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42.王都の食卓と調和区画のひととき



 柔らかな朝光が、森を模した部屋の天窓から差し込んでいた。鳥のさえずりのような魔法音が淡く響き、悠真はゆっくりと目を開ける。


 コン、コン。


「ユウマさん、起きてますか?」


 扉の向こうから、ケインの少し遠慮がちな声が聞こえてきた。


「は、はい! 今、起きました!」


 急いで身支度を整えつつ、寝ぼけて腕に絡みついてきたスピカをそっと抱き上げる。ふわふわした毛並みが温かく、スピカは目を細めて「……あと五分……」と小声で呟いた。


「だーめ。朝ごはん行くよ」


「むぅ……悠真の腕、あったかいのに……」


 そんな不満げなスピカを胸元に抱えたまま、悠真は扉を開いた。


「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」

 ケインがいつも通りの丁寧さで微笑む。


「はい、おかげさまで。ここのベッド……すごく眠りやすかったです」


「それは良かった。では、食堂へご案内します。みなさん一緒で大丈夫ですよ」


 促されて歩き出すと、ノクスが無言で並び、アズールはあくびをしながら悠真の後ろをついてくる。静かな廊下は朝の魔力が満ちており、どこか木漏れ日の中を歩いているようだった。


「……スピカ、ほんとに眠そうだな」


「昨日いろいろあったのよ。気力の消費が激しかったんだから……」


 ぼそぼそと文句を言うスピカの頭を軽く撫でながら、悠真たちは樹冠塔の内部にある食堂へと向かった。


 ケインに案内されて宿舎の廊下を歩いていると、ふと彼が振り返った。


「そうそう。幻獣達の食事ですが……調和区画に用意されます。

 自然素材の餌、魔力調整水、休憩スペースまで整っていまして、いつでも自由に使ってください。人間用の食堂で食べる必要はありません」


「そんな場所まであるんだ……さすが幻獣保護の本場だな」


 悠真は心から感心し、ノクスとアズールに目を向けた。

 二体は落ち着いた様子で、どこか誇らしげに胸をはっている。悠真の腕の中にいるスピカは、当然ね、と言わんばかりの表情だ。


「後でご案内しますので、まずは朝食から行きましょう」


 そう言って、ケインは大きな扉を押し開けた。


 途端にざわ……と空気が揺れた。

 視線だ。

 テーブルにつく職員達が、一斉にこちらを振り返っている。


(……めっちゃ見られてる)


 悠真が戸惑って苦笑する横で、ノクスとアズールは静かに背筋を伸ばした。

 スピカは眠たそうな目のまま、ひょこっと顔を上げる。


「なんか、注目されてるね……?」


「そりゃあ、珍しいからよ。幻獣が人と自然に歩いてれば、誰だって見るわ」


 スピカは当然と言わんばかりだが、悠真は内心そわそわだ。


 そんな雰囲気を察したケインが、申し訳なさそうに眉を下げた。


「すみません……皆、悪気はないんです。ただ、樹冠塔以外でここまで人に懐いた幻獣を見たことがない職員が多くて。珍しさと驚きで、視線が集まってしまって」


「いや、気にしないで下さい。俺もまだ慣れてないだけですし」


 悠真が苦笑しながら答えると、ケインは安堵したように胸を撫で下ろす。


「ありがとうございます……では、こちらへ」


 木の香りが柔らかく広がる広い食堂。

 薄い朝靄を模した照明が落ち着きを与える。


「こちらの席をどうぞ。ちょうど朝食の準備ができたところです」


 ケインに促されて席につくと、すぐにテーブルに朝食が運ばれてきた。


 大皿に盛られていたのは、**王都名物〈ミストリアの朝靄プレート〉**と呼ばれる定番料理。


◆ミストリアの朝靄プレート — 王都の定番朝食

・ふわふわの白い蒸しパン《ミストブレッド》

・森の蜂蜜と薬草バター

・薄く焼いた森鹿ハム

・透明感のある半熟卵《霞卵かすみらん

果実グロウベリーのサラダ

・香草を煮出した温かいスープ


 霧の都とも呼ばれる王都の気候に合わせて、

 “身体を優しく温める”ことを意識したメニューだとケインが説明する。


「うわ……美味しそう……!」


 悠真の一言に、ケインは少し嬉しそうに頷いた。


「このスープは特に人気でして。朝一番に飲むと、一日中魔力循環が良くなると言われているんです」


 ノクスもアズールもそれぞれの器を前に置かれ、静かに座って待っている。

 スピカだけが、悠真の膝の上で半分寝ぼけながらプレートに顔を寄せた。


「……この霞卵、美味しいのよね……ほら、悠真、まずはそれよ。とろっとしてるから」


皿の中央に、半透明の卵がこんもりと盛られていた。

表面は軽く白く曇り、ぷるん、と揺れる。


スプーンを入れた瞬間、


しゅわ……っ


と、炭酸のような繊細な泡がほどけ、

中からとろりと金色の黄身が流れ出す。


その黄身はなぜか舌の上で軽く弾け、

まるで朝の霧が光に溶ける瞬間みたいな味がする。


「なにこれ……卵なのに口の中が爽やか……!」


スピカは眠い顔のまま、器用にスプーンだけ奪って一口食べた。


「……ん。悪くないわね」


満足したのか、しっぽがひょいと一度だけ揺れた。


 眠たそうにしながらも味見を要求するスピカ。

 ノクスとアズールは、食堂員が気を利かせて出してくれた“軽食用の香草水”を静かに飲んでいる。


 途中、数名の職員がちらちらと興味深そうに視線を送ってくるが、

 ケインが軽く首を振ると、皆そっと視線を戻していった。


(……ケインさん、なんか申し訳ない)


 そんな気持ちになるほど、ケインは細やかに気を配っていた。



 食べ終わった悠真の顔は幸せそのもの、

 スピカは満腹で若干眠そう、

 ノクスとアズールは「次は調和区画かな」と落ち着いた様子。


そんな様子を見たケインは静かに微笑んで言う。


「では……先に調和区画に向かいましょうか」


 ケインに案内され、悠真たちは「調和区画」へと足を踏み入れた。


 そこは、森の空気と魔力がゆるやかに混ざり合う、温かい空間だった。

 部屋の奥では担当者たちが、幻獣たちの前に餌皿を並べているところだった。


 皿には、赤身の肉、脂の乗った魚、香草を混ぜた若草のサラダ、

 それにスープ状のミルクなど、種類も彩りもさまざまだ。


 幻獣たちはそれぞれお気に入りの皿を選び、

 満足げに鼻を鳴らしながら食べている。


 その光景を前に、ノクスが悠真へ視線を向け、

 控えめに喉を鳴らした。


『……主、食べていいのか?』


 律儀すぎるその質問に、悠真は思わず笑ってケインへ視線を送る。


「ノクスやアズールも、自由に食べていいんですよね?」


「もちろんです。好きなだけどうぞ。

 幻獣たちの食事は個々に合わせて魔力調整してありますから」


 その返答を聞いて、悠真はノクスとアズールの頭を撫でた。


「だってさ。好きにしてていいよ。ゆっくり食べてて待っててね」


 ノクスは嬉しそうに喉を鳴らし、

 アズールはぱあっと顔を明るくして餌皿へ駆けていく。


 ――カリ、カリッ。

 ――もぐ、もぐ。


 二匹が幸せそうに食べる音が後ろから聞こえた。


 その横を歩きながら、悠真はスピカの方を見る。


「スピカは、食べなくていいの?」


 スピカは悠真の肩の上で、

 ふわっと金色の瞳を細めながら答えた。


「私はもう朝食でお腹いっぱいよ。

 ……あんなに美味しいものを食べたあとで、すぐには無理」


 そう言うと、ひとつ欠伸をし、

 尻尾で悠真の頬を軽くぽんと叩いた。


「さ、行きましょ。あの子、もう起きてる頃よ」


 その言葉に頷き、悠真は昨日世話をした幼いカーバンクルの部屋へと向かった。


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