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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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40.破格の依頼、その理由


お待たせいたしました。。。


 幼いカーバンクルの世話をしながら、悠真はふと周囲に視線を巡らせた。


 外側から見ると完全にガラス張りで、研究施設らしい印象だったが――

 中に入ると、外は一切見えない。

 そこには人の手では到底再現できない、澄み切った魔力の森が広がっていた。


 光は天井のどこからか降り注ぎ、草木はゆらゆらと呼吸するように揺れ、

 中央には、一本の大樹が根を張っている。


 悠真は、その木に目を奪われた。

 枝ぶりも根の太さも、普通の木とは明らかに違う。形容しがたい“存在感”がある。


「……これ、生きてるよな?」


 思わず独り言を漏らすと、悠真の肩に乗っていたスピカが、ゆっくりと瞳を細めた。


「世界樹の“小枝”よ」


「これが……枝……?」


 大人が両腕で抱えても余るほどの幹。

 遥か天井まで届くような樹冠。


 どう見ても“木一本”では収まらない。

 だが、スピカの声は本気で言っていた。


「世界樹そのものは、もっと大きいわ。見上げても姿が追えないくらいにね」


 悠真は、言葉を失った。

 さっき研究員が言っていた“世界樹の残滓”という表現も、ようやく腑に落ちる。


 この空間そのものが、世界樹が落とした奇跡の一部なのだ。


 しばらくすると、世話を終えたカーバンクルの幼獣が、

 丸い体をくるんと丸めて眠りについた。


 その寝息は、ほのかに光の粒を散らしている。


「……寝た、ね」


 悠真は小声でつぶやき、そっと立ち上がった。


「じゃあ、一旦外に出るよ。スピカも――」


「分かってるわよ。ほら、行きましょ」


 ほんの少しだけ、スピカの声が柔らかかった。

 悠真はそれに気づいたような、気づかないような表情で、静かに部屋を後にした。


 外に出ると、施設の壁沿いに小さな台座があり、その上に透明な水晶玉が据え付けられていた。


 悠真はその前で立ち止まり、首をかしげる。


「……これが連絡用の水晶ってやつ?

 で、どうやって使うんだ?」


 しげしげと眺め、軽くつついてみる。

 もちろん何も起きない。


 その横でスピカが、呆れ半分のため息をこぼした。


「貸しなさい。ほら、こうするのよ」


 スピカは水晶の上に、ふに、と肉球をそっと押し当てた。


 次の瞬間――

 水晶が、ぱぁっと淡く光を広げた。


『どうされましたか?』


 落ち着いた青年の声が、水晶越しに響いてきた。


「おお……!」

 悠真は思わず小声で感嘆する。


 気を取り直して、幼獣が無事に眠ったこと、

 それから、この後どう動けばいいのかを尋ねた。


『了解しました。では、契約事項についても説明させていただきたいので……』


 青年の声が丁寧に続く。


『そのまま通路を真っ直ぐ進み、突き当たりの階段を上ってください。

 最初の扉を開けた先の応接室にいます』


「分かりました」


 返事をすると同時に、水晶の光はすっと消えた。


 悠真は、隣のスピカを見る。


「……スピカ、ありがとう。助かった」


「別に。あなたが不器用すぎるだけよ」


 そう言いながらも、どこか誇らしげな顔をしていた。


 外で待っていたノクスとアズールは、悠真の姿を見るなりぱっと顔を上げた。


『主、終わった?』

 ノクスが首を傾げながら念話を送ってくる。


「うん。待っててくれてありがとう。アズールもノクスも、おつかれ」


 声をかけると、二匹は嬉しそうに尻尾を振った。

 その様子に自然と頬がゆるむ。


「じゃあ、教えてもらった通りに行こうか」


 悠真は二匹を連れ、スピカと共に通路を歩き出した。


 通路の両側には、ガラス張りの部屋が等間隔に並んでいた。

 構造は先ほどのカーバンクルの幼獣室と同じ。


(この施設……思ってた以上に大規模なんだな)


 扉越しに魔力の気配は感じるものの、

 むやみに覗き込むのは良くない気がして、視線だけそっと逸らす。


(どんな幻獣がいるんだろ……見たことない種類もきっといるよな)


 興味は尽きないが、今は依頼を優先だ。


 通路の奥に進むと、やがて視界が開け、

 優雅な曲線を描く螺旋階段が姿を現した。


「……あ、あれだな」


 悠真は深呼吸し、階段を上り始めた。


 緩やかとはいえ、延々と続く螺旋はなかなかの長さだ。

 ようやく上りきり、最初の扉の前で足を止める。


「……い、意外と登ったな……っ」


 少し息が上がっている悠真の横で、スピカがため息をついた。


「運動不足ね」


「う……ぐ。

 いや、俺だっていつも誰かに運んでもらってる“誰かさん”よりは歩いてるんだけど……」


『主、がんばった』

 ノクスが素直に褒めてくるので、悠真は少し救われた気分になった。


 アズールはというと――

 羽をゆらしながら、時々羽ばたき軽々とした足取りで悠真の横に降り立つ。


(……みんな元気だなぁ)


 そんな心の声を胸にしまって、悠真はそっと扉に手を伸ばした。



 扉を開けると、部屋は落ち着いた照明と木目を基調とした柔らかな空間で満たされていた。

 その中央の応接セットには――先ほどの研究員と、白髪まじりの立派な髭を蓄えた年配の男が座っていた。


「えーと……入っても?」


 悠真がおずおずと声をかけると、年配の男は穏やかに頷いた。


「どうぞ。こちらへお掛けなさい」


 促され、悠真はソファに腰を下ろす。

 スピカは当然のように膝におさまり、アズールは足元に丸くなり、ノクスは悠真の背後に静かに控える。


 その配置を一通り観察した年配の男が、ふむ、と顎ひげを撫でた。


 その視線は、どこか「興味深いものを見つけた」という研究者特有の色を帯びている。


「自己紹介がまだでしたね」


 先に口を開いたのは、案内してくれた青年研究員の方だった。

 白衣の胸元を軽く整え、礼儀正しく会釈する。


「私はこの施設の研究員、ケインと申します。

 そして、こちらにおられるのが――ここの副所長、バストル様です」


 紹介された老紳士――バストルは、温厚そうな微笑を浮かべたまま、悠真を見る。

 だが、その瞳の奥には鋭い観察の光があった。


「さて、ユウマ殿。君の“伴侶たち”について、そして依頼の詳細について……少し話をさせてもらおうか」



 スピカは「伴侶」という単語が聞こえた瞬間、

 ばっ! と全身の毛を逆立てた。


「ま、まだそんな関係じゃないわよ!!」


 膝の上で跳ねるように抗議するスピカに、悠真は慌てて背を撫でる。


「ち、違う違う、バストルさん。大事なパートナー達です。

 スピカも落ち着いて……ほら」


 なでられたスピカは、ぷいと横を向きつつも、毛をおさめる。

 対してバストルは、腹の底から楽しそうに笑った。


「ふぉっふぉっふぉ……良い。実に良い。なるほど、仲がよいのう」


「バストル様、話が飛びすぎです。まずは依頼の説明から入ります」


 隣の青年――研究員のケインが額に手を当て、慣れているらしい疲れた声で話を戻した。


「今回の依頼は“日程固定ではありません”。

 可能な限りこちらに来てもらえれば良い、という方針です」


「へぇ……それは助かるな」


「ただし、一つだけ条件があります。

 1日3時間は最低でも幼獣たちの世話にあててほしい。

 これは必須です」


 悠真は素直に頷く。

 急ぐ旅でもないし、今のペースなら問題なかった。


「そして――慣れてきたら、カーバンクルの幼獣だけでなく、もう一匹“見てもらいたい子”がいるのです。

 その話は追ってお伝えします」


「もう一匹……?」


 スピカがそわりと耳を動かしたが、悠真はそれ以上は聞かず、続きを促す。


「報酬ですが――時給金貨1枚です」


「……高っ」


 本音が漏れる。


 ケインは真面目な表情で頷いた。


「もちろん、理由があります。

 依頼内容を口外しないこと。これが重要な契約条件です。

 施設内で見聞きした情報は外へ漏らさない――ただそれだけで、我々はその価値があると考えています」


 そしてケインは、もう一つ付け加える。


「世話をする時間以外は、自由に過ごして構いません。

 また、依頼期間中の宿泊場所はこちらで用意しますので、王都での滞在費もかかりません」


「至れり尽くせり……すぎでは?」


「理由があるのですよ」


 バストルが穏やかに言う。

 その声音には、軽い冗談では済まない“何か”の重みがあった。


「さてユウマ殿。受けてくれるかの?」



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