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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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31.もふもふ来訪



 ノクスの背にまたがり、悠真は空を見上げた。

 霧の翼が淡く光を放ちながら、静かに風を掴む。

 スピカが隣でふわりと跳び上がり、白い尾が風を裂いた。

 彼らの後を追うように、アズールの青い影が木々の上を滑る。


 夜明けの光が差し込む森を抜け、やがて一行は湖畔へとたどり着いた。

 そこには、逃がされた幻獣たちが身を寄せ合い、ひっそりと息を潜めていた。

 透き通る湖面に、白いペガサスのたてがみが映り、金色の光を帯びた蝶のような幻獣がその周囲を舞う。


 ノクスが静かに降り立つと、地面に積もった落ち葉が舞い上がった。

 その風の音に幻獣たちは一瞬身を固くしたが、すぐに悠真たちの姿に気づき、次々と顔を上げる。


 「……大丈夫だ。もう、怖がらなくていい。」


 悠真が穏やかに声をかけると、幻獣たちはゆっくりと歩み寄ってきた。

 スピカの足元に小さなフェンリルの子がすり寄り、アズールの背にリスのような幻獣がよじ登る。

 湖のそばでは、ペガサスが翼をひろげて悠真の肩に鼻を寄せ、静かに息を吹きかけた。


 「うわ……もふもふの嵐だ……」


 悠真が思わずつぶやく。

 ノクスが得意げに尻尾を振り、スピカが小さく笑った。

 「幻獣たちは、あなたの匂いに安心してるのよ。もう“共鳴者”として覚えられてるわね。」


 「共鳴者……か。」悠真はその言葉を噛みしめた。

 これが、幻獣たちと心を通わせるということなのだろう。

 その温もりに包まれながら、彼はようやく安堵の息を漏らした。


 湖面に映る朝日は柔らかく、穏やかな風が頬をなでた。

 ――戦いの終わりに訪れたのは、まるで夢のようなもふもふの楽園だった。



 湖畔に吹く風は穏やかで、波の音が心地よく響いていた。

 幻獣たちに囲まれながらの休憩は、まるで夢の中のようだった。

 スピカは陽だまりにまるまり、ノクスはペガサスとなにやら話しているようだった。

 アズールは湖面の虫を追いかけて、時折楽しげに鳴いた。


 悠真は湖のほとりで腰を下ろし、腕に絡みつく小さなフェンリルの子をなでながらつぶやいた。

 「……さて、この子たち、どうしようか。」


 森の奥深くへ帰すべきか、どこか安全な場所へ導くべきか――考えあぐねていたその時。

 スピカがふと顔を上げ、眩しそうに空を見た。

 「――あぁ、ちょうど来たみたいね。」


 「え?」

 悠真もつられて空を仰ぐ。


 遠く、青空の向こうに小さな点があった。

 最初は鳥の群れかと思った。

 だが、それはひとつだけで、まっすぐこちらへと突き進んでくる。


 見る間にその影は大きくなり、風が渦を巻き始めた。

 悠真は思わず後ずさる。

 「まさか……あれって――」


 その“飛翔体”が頭上に迫った瞬間、空気がはじけるような音がした。

 ――ぽふん。


 煙が広がり、光が散る。

 次の瞬間、ふわふわの髪としっぽを持つ少女が空から落ちてきた。

 「呼ばれて飛び出てなのじゃ!」


 見事に決まった着地――のはずだったが、少しバランスを崩して悠真の頭にドスンと落下。


 「いっ……! な、なんでそういう登場なの!?」

 「うむ、印象に残るじゃろう?」


 モフ子――いや、“夢幻竜”の来訪である。

 その柔らかい笑顔に、スピカが呆れたように息を吐いた。


 モフ子はふわりと着地すると、湖畔の風にたなびく髪を押さえながら、悠真たちを順に見回した。

 その金の瞳がゆっくりと細められる。


 「ふむ――」


 短く唸るように言ってから、スピカへと視線を向けた。

 「おぬしら、共鳴したようじゃな」


 スピカが軽く眉を上げる。

 「気づいてたのね」


 「当然じゃ。おぬし、格が上がっておる。光の気配が一段階、深くなった。

 ……そして――」


 モフ子の視線が、隣に立つ黒い影へと移った。

 ノクスは少し身を引き、耳を伏せる。


 「そこの黒いの。元は魔獣じゃろう」


 悠真が思わず息をのむ。

 モフ子は小さく頷き、続けた。


 「だが今は違う。幻獣化しておるわ」


 「……え?」

 悠真は思わず聞き返す。

 「ノクスって……幻獣になったの? そんなこと、あるの?」


 モフ子はしっぽを揺らし、にやりと笑った。

 「稀に、じゃがな」


 言いながら空を見上げ、指先で風をすくうような仕草をした。

 「魔獣は魔素から生まれる存在じゃが、世界樹の加護に触れ、繋がりを得たとき――

 “再び生まれなおす”ことがあるのじゃ。

 それが幻獣化という現象じゃ」


 悠真はノクスの横顔を見る。

 黒い毛並みが湖の光を反射して、金色の縁取りを帯びていた。

 確かに、以前よりも“光”を感じる。


 モフ子が続ける。

 「今回はお主の共鳴を通して、ノクスが世界樹と繋がったのだろうな」


 「……俺の、共鳴で?」

 「うむ。お主の中に流れる波長が、幻獣たちの核と共鳴した。

 ノクスの魂が応え、道を開いたのじゃ。

 それは“主従”ではなく、“並び立つ者”としての繋がりよ」


 悠真は言葉を失い、ただノクスを見つめた。

 ノクスは静かに首を垂れ、穏やかに尾を揺らす。


 「……ありがとな、ノクス」


 ノクスは短く鳴いて応えた。

 その声はまるで、「こちらこそ」と言っているように響いた。



 「さて――本題じゃ!」


 ぱん、と小さな手を叩いて、モフ子は胸を張った。

 「わしは幻獣の幼子を迎えに来たのじゃった!」


 くるりと視線を巡らせたその先には、怯えながらも湖畔に身を寄せ合う小さな幻獣たち。

 羽毛、毛並み、光の粒が朝靄に溶け、あたり一面が淡い虹に染まっていた。


 悠真が一歩前に出て尋ねる。

 「どうして……ここが分かったんだ?」


 モフ子はにやりと笑い、胸をどんと叩いた。

 「呼ばれたからじゃ!」


 その言葉にスピカが呆れたようにため息をつく。

 「またそうやって、理屈より勘で動くのね」


 「理屈などいらぬ!感じるのじゃ!」

 モフ子はそう言うと、幻獣たちの方へと歩み寄り、小さく指を弾いた。


 ぱちん、と澄んだ音が響いた瞬間、光の粒がふわりと宙に浮かび上がる。

 幻獣たちの体がやわらかな光に包まれ、まるでシャボン玉のように淡く揺れながら、ひとつ、またひとつと宙へと舞い上がっていった。


 「結構おるな。目覚めたばかりの子らばかりで、骨が折れるわい」

 ぶつぶつ言いながらも、モフ子の目は優しかった。


 悠真たちの方へ向き直ると、

 「今回は瞬きの間の再会じゃったが――次はいつになるか、楽しみじゃ」

 ふわりと笑う。


 そして手を掲げると、風が巻き起こり、彼女の髪と衣が光の粒を散らした。

 「こやつらは、わしが“あるべきところ”に返す。心配するでないぞ」


 光の渦の中、モフ子は一瞬だけ悠真に視線を向ける。

 その瞳は、どこか未来を見透かしているようだった。


 「それから――お主にもまた、“縁”があるようじゃな」


 「……え?」と悠真が聞き返すより早く、

 モフ子の姿は淡く溶けて、金色の光が龍の輪郭を描く。


 湖面が震え、巨大な翼がひとたび風を打つと、

 光に包まれた幻獣たちを伴って、モフ子は空へと昇っていった。


 虹色の光が尾を引き、森が息を呑むように静まり返る。


 「……ほんと、嵐のようだわ」

 スピカが呆れたように言い、ノクスが低く鼻を鳴らした。


 悠真は空を見上げながら、

 「縁、か……一体なんのことなんだろう」

 と小さく呟いた。


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