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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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18.次なる旅路へ



ノクスの背に跨り、山脈へと向かう街道を進む悠真たち。

風を切って駆けるノクスの足音は軽快で、時折アズールが翼を広げて併走するように空を舞った。スピカはカバンの縁からひょいと顔を出し、前方を見据えている。


やがて日が傾き、赤く染まる空が辺りを包み始めたころ。森の入口付近に、焚き火を囲む人影が見えた。

数人の冒険者たちが、野営の準備をしているようだ。薪を組み、鍋を吊るし、傍らでは地図を広げている。彼らの周囲には既に張られたテントも見える。


悠真はノクスをゆっくり歩ませながら、その光景を遠目に眺めた。

「……野営か。俺たちも今日はここで休んだ方がいいかな」

独り言のように呟く悠真に、スピカが耳をぴくりと動かす。

「どうするの?あの冒険者たちの近くに陣取る?」


冒険者たちも、こちらに気づいたのか視線を向けてきていた。

焚き火に照らされるその目は、敵意というよりは、同じ旅路の者を測るようなもの。


悠真はノクスを止めると、少し考えてから冒険者たちに声をかけた。

「……隣、いいですか?」


冒険者の一人が顔を上げ、仲間と視線を交わしたあと、「ああ、構わないさ」と軽く返してきた。

悠真は礼を言い、彼らから適度に距離をとった場所にテントを張ることにした。


ここまでの移動を労うように、ノクスは悠真が差し出した水袋からゆっくりと喉を潤す。

アズールは軽やかに森の中へ飛んで行き、ほどなくして嘴に小枝をくわえて戻ってきた。

「助かる」悠真が受け取り、それをスピカが火種にして炎を灯す。


その間に悠真は鍋を用意し、干し肉や野菜を刻んで煮込み始めた。

もはや手慣れたものだ。旅の中で自然と役割が決まったらしく、それぞれが無駄なく動き、野営の支度はあっという間に整った。


焚き火を囲み、ようやく落ち着いた頃だった。

悠真は背中にぞくりと視線を感じ、ちらりと横目をやる。

――先ほどの冒険者たちが、こちらをチラチラと伺っていた。

ノクスに、アズールに、そしてスピカ。彼らが好奇の的になるのは仕方がない。


「敵意は……なさそうね。ただの興味本位かしら」

スピカは焚き火の火を見つめながら、淡々と呟いた。


悠真は苦笑しつつ鍋をかき混ぜる。

「まぁ、目立つ連れが多いからな……」



その時、女性冒険者が焚き火の明かりに照らされながら、恐る恐る近づいてきた。声の届く距離まで来ると、両手を胸の前で揃えておずおずと口を開く。

「あ、あの……お話ししても大丈夫ですか?」


突然の問いかけに悠真は少し驚きつつも、曖昧に笑って答えた。

「え、えぇ。大丈夫ですけど……」


女性の目線は、悠真ではなくその横で前足を舐めて毛づくろいをしているスピカに注がれていた。

「その子って……もしかして、カーバンクル……ですか?」


悠真は少し肩を竦めて、隣のスピカに目を向ける。

「そうですよ。スピカって言います」


その瞬間、女性冒険者は口を押さえ、瞳を潤ませた。

「やっぱり……! 本物の……カーバンクル……!」

声にならない感嘆が漏れる。


スピカはちらりと目を上げると、ふん、と得意げに鼻を鳴らした。


「め、滅多に人前には現れないって……幼い頃から本でしか知らなくて……まさか旅先で出会えるなんて……!」


女性の声に反応したのか、少し離れた場所で休んでいた仲間の冒険者二人も、興味深そうにこちらへ歩み寄ってきた。

「……おい、何かあったのか?」

「いや、あの子……本当にカーバンクルみたいだ」


女性は振り返り、小さく頷いた。

「もう少し、お話を伺ってもいいですか?」


悠真は戸惑いながらも、焚き火の脇に手を差し出す。

「どうぞ。狭いですが、座ってください」


三人は感謝を口にしながら腰を下ろした。火の粉がぱちぱちと弾け、静かな森に冒険者たちの自己紹介が重なる。


「私はリネア。弓を扱う冒険者で……えっと、一応、魔獣使いでもあります」

栗色の髪を揺らし、リネアは少し恥ずかしそうに笑った。


「俺はガイル。前衛担当だ。こいつの護衛みたいなもんだな」

がっしりとした体格の青年が低く笑う。


「オレはフェン。魔法で援護してる」

華奢な青年が気取らず肩をすくめた。


悠真も軽く頭を下げて名を名乗ると、リネアが興味深そうにこちらを見た。

「ユウマさんって……やっぱり魔獣使いの方なんですか?」


「魔獣使い……?」

聞き慣れない単語に、悠真は首を傾げる。


リネアは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑みを浮かべて説明を続ける。

「魔獣と契約して一緒に戦ったり、共に生きる人たちのことです。私は灰狼〈グレイウルフ〉のラグナと契約しています」


リネアが指さす先、少し離れた暗がりから灰色の狼が姿を現した。炎に照らされた毛並みは光沢を帯び、知性を宿した瞳が悠真たちを見つめ返す。


「へぇ……すごいな」

悠真が思わず声を漏らすと、リネアは照れたように笑った。


次の瞬間、彼女の視線は悠真の隣へと移る。そこには悠然と座る黒き霧の馬――ノクスの姿があった。

「……それにしても、その子……エクリプスですよね?」


リネアの声は、尊敬と畏怖が入り混じった響きを帯びていた。

「何回か見たことはあるのですが、そんなに懐いてるところを見たのは初めてで……人に懐くなんて、信じられません」


ノクスは悠真の横顔をちらりと見て、静かに鼻を鳴らす。その仕草は、確かに悠真に心を許している証のようだった。


悠真は少し照れくさそうに笑い、ノクスの首筋を撫でる。

リネアはそっと手を差し伸べ、ノクスの首筋に触れた。

「……本当に、落ち着いているんですね」


ノクスは嫌がることもなく、ただゆったりと目を閉じて受け入れている。その様子にリネアは感動したように息を呑んだ。


「普通なら近づいただけで蹴り飛ばされてもおかしくないのに……」

「ノクスは優しいんですよ」

悠真がそう言って軽く笑うと、ノクスが鼻を鳴らす。まるで同意するかのような仕草に、リネアたちも自然と笑みを浮かべた。


そこからは、焚き火を囲んで他愛のない雑談へと移った。

悠真は、旅をしていることや、昔から生き物が好きだったことを話す。その膝の上では、もふもふに成長したアズールが気持ちよさそうに丸まっていた。


「その子も……魔獣なんですか?」

リネアが不思議そうに首を傾げる。


悠真は少し考え込み、苦笑しながら頭をかいた。

「うーん……まだよくわからないんですよ。普通の鳥ではないのかな? といったくらいで」


曖昧な返答に、アズールが「ひゅい」と短く鳴く。まるで肯定するかのようで、皆が思わず笑った。


やがてガイルが立ち上がり、肩を回す。

「さてと。長居しちまったな。邪魔したぜ」

「急にすみませんでした」フェンも軽く頭を下げる。

リネアも名残惜しそうにアズールを見つめてから、微笑んだ。

「ではまた、おやすみなさい」


三人はそれぞれの野営地へと戻っていった。残された悠真たちは、再び焚き火を囲んで静かな夜を過ごすのだった。


────


翌朝。

悠真が目を覚ますと、隣の冒険者パーティーはすでに荷物をまとめていた。

まだ朝靄の残る森の端で、リネアが顔を上げた瞬間、目が合った気がする。悠真は軽く手を上げて会釈を返した。


悠真たちも簡単に朝食を済ませ、片付けを始める。その頃、リネアたち三人がこちらに歩み寄ってきた。


「おはようございます。ユウマさんたち、もう出発されてしまったのかと思いました」

驚いたように言うリネアに、悠真は首を傾げた。


フェンが不思議そうに周囲を見渡す。

「夜も真っ暗で見えなかったし、朝になっても気配がしなかったんだ。てっきりもう旅立ったかと」


するとスピカが焚き火跡の上で伸びをしながら、けだるげに口を開いた。

「私が結界を張ってたの。おまけにノクスが霧を出してたから、外からは気配がほとんど感じられなかったのよ」


「結界に……霧まで……」

リネアは目を丸くして、感嘆の声をもらした。

「そんなことまでできるんですね……すごいです」


ひとしきり雑談を交わしたあと、リネアが微笑んで言った。

「私たちはこのあと王都へ向かうつもりです。またどこかでお会いできたらいいですね」


悠真も穏やかに笑みを返す。

「俺たちも寄り道しながら王都に行く予定ですから。きっと、またご縁があるでしょう」


そうして軽く別れの挨拶を交わすと、リネアたち三人は森の奥へと歩み去っていった。


悠真はその背中をしばらく見送り、ノクスのたてがみを撫でながら小さく息をついた。

「さて、俺たちも行くか」



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