表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/130

母から娘へ

冬のあいだ、リリィは静かに公募の内容を決めていた。

自室の文机に向かい、紙に参加要項を書き連ねていく。


「身分は問わず、参加される方が平等になるようにいたしましょう」


ペンを握る手が、ふと止まる。

思い浮かぶのは、ただ一人。


だが、その存在を頭の片隅へと追いやりながら、彼女は再びペンを走らせた。




ときおりアメリアが訪ねてきては、紅茶を淹れ、他愛ない会話をした。

けれどリリィの瞳に宿る静かな光を見て、彼女はもう何も言わなくなった。

——リリィは、すでに前へ進む覚悟を決めている。そう感じたからだ。



カイゼルと慎ましい距離を保ちながら過ごした冬が終わりを告げ——春の芽吹きを感じるようになった頃。


リリィの宣言通りに、公募での婚約者探しが始まろうとしていた。

城下町では詳細が書かれた紙が配られ、その前代未聞な内容に多くの関心が寄せられた。


フェザースノウ家では家の誰かが大きな決断をする時、母である——イリスの部屋へと向かい、家族の象徴である彼女へ報告するというならわしがある。


それは命令でも義務でもなく、“心の矜持を整えるためのひととき”だ。

リリィもそれに倣い、イリスのいる私室の扉をノックした。


「どうぞ」

「お母様、失礼いたしますわ」


ドアの先では昼下がりの光がレース越しに揺れ、淡い香の漂う中で、イリスは静かに刺繍をしていた。


リリィは静かにイリスの元まで歩み寄ると、ゆっくりと口を開いた。


「お母様、わたくし……明日、自分の未来を懸けて挑みますわ」


イリスは刺繍の手を止めて、リリィを見上げながら優しく答えた。


「決意を示すというのは、相手を打ち倒すことではありません。あなたの拳は、力ではなく“心”を動かす拳です」

「心を……動かす?」

「本気で誰かと向き合うとき、人は逃げられないものです。手を離す覚悟をしたその時こそ、誰かが——あなたの手を掴みに来るのです」


イリスは真っ直ぐにリリィを見つめながら続けた。


「その時、あなたはきっと……愛を知るのでしょうね」

「……愛」

「今はまだわからないでしょう。……ですが、その時がくればきっとあなたにもわかるようになります」


イリスは確信したようにリリィに告げ——そして静かに口を閉ざした。


「お母様、ありがとうございます。頑張ってまいりますわ」


リリィは軽く頭を下げてから静かに部屋を去っていく。

そんな娘の大きな背中が、少しだけ小さく見えた。


強く在ろうとするあの子の姿が、どこか寂しげに見えて——イリスの胸の奥がかすかに痛んだ。

また次回

毎日が筋曜日!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ