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闇夜に浮かぶ輪郭

屋上へと続く扉を押し開けると夜風がふっと吹き込み、リリィの髪と耳飾りを揺らした。


澄み切った空気が肺を満たし、吐く息が白くなる。

下弦の月が、石畳の廊下を淡く照らしていた。


「やはり、冷えるな」

「ええ」

「……冬の夜は、空気が澄んでいて星がよく見える」


カイゼルが歩を進めながら、横目にリリィへ言う。


「どうしても、リリィ嬢と一緒に見たかったんだ」

「……っ!」


彼の一言にリリィが言葉を失った——その時。


「始まった!」


彼の声につられ、空を見上げる。


星々が一斉に流れ落ち、夜空が光の雨に包まれた。

彼女の視界いっぱいに光が降り注いでいく。


「とっても……綺麗ですわ……!」


リリィは感嘆のため息をもらしながら、しばらく夢中で空を見上げていた。


暗闇に浮かぶ彼女の輪郭に目を奪われる。

月明かりに照らされる優雅なシルエット。


あの夜とは違う。

今は彼女は——姿も、息づかいも、何もかもがはっきりと見えた。


「カイゼル殿下!とっても素敵ですわ!」


声を弾ませながら、リリィはカイゼルへと視線を向けた。


「ああ、そうだな」


彼の表情にリリィは思わず息を呑んだ。

カイゼルが向ける笑みは心から嬉しそうで、何よりも温かい。


「座ってゆっくり眺めようか」


カイゼルの一言に、そばに控えていたマチルダが動き出す。


彼女は何も言わず、いつの間に腕に抱えていた白銀の毛皮を広げ、石畳の上にふわりと敷いた。


「あら、ありがとう」


リリィがお礼告げるとマチルダは静かに礼をしてから屋上を去っていく。

そんな彼女の背を見つめながらカイゼルは苦笑いした。


(さすがだな。気を使わせてしまったか……)


二人で座り、身を寄せ合う。

ほんの少し近づけば、互いの体が触れ合ってしまいそうな距離。


その近さに、リリィはわずかにむず痒いような気持ちになった。

自然にお互いの視線が交差した。


「……ははっ、頬が赤いな」


照れ笑いを浮かべながら、おもむろに両手でリリィの頬を包む。


——一瞬、世界が止まったようだった。


目の前には流星群よりも輝く笑顔。

リリィの視界の中できらめく光が弾けては消え、まるで夜空の星々が舞い降りたようにカイゼルを彩っていた。


冷えた指先のはずなのに、不思議と温かい。


「っ!……すまない」


はっとしたようにカイゼルは手をゆっくりと離した。


「……いいえ」


少し首を振ったリリィの声は、静かだった。

けれど、確かな熱を帯びていた。


体は冷えていたはずなのに、胸の奥にぽうっと温かな火が灯ったようだった。

それは紛れもなく、自分の中にある熱なのだとリリィは知った。


それからお互いに会話はなかった。——だが、そんな静かな時間でさえも二人にとってかけがえのない大切な思い出となっていった。




「……くしゅん!」


隣から聞こえた音に、カイゼルがリリィへ顔を向けた。

ふっと笑いながらカイゼルが問いかける。


「風邪をひく前に、そろそろ戻ろうか?」

「ええ……申し訳ありません」

「いや。いいんだ」


名残惜しさを胸に、立ち上がった——その瞬間。

二人の間を縫うようにひらりと白いものが降ってきた。


「雪……?」


リリィの手のひらに落ちたそれはすぐに溶けて消える。

空を仰げば、澄んだ闇からぽつり、ぽつりと舞い降りてくる。


「初雪まで一緒に見られるなんてな……」

「奇跡みたいですわ」


空を見つめていた視線が、自然にお互いと交わった。

微笑み合った二人の吐息が、白く重なって夜に溶けていった。

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