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優しい香りを添えて
暖炉の火が室内を柔らかく照らし出す。
湯浴みを済ませたリリィは、穏やかな気持ちで窓の外を眺めていた。
「リリィお嬢様、カイゼル殿下からお手紙が届いております」
「ありがとう、マチルダ」
リリィは振り返り、彼女から手紙と銀貨を受け取った。
暖炉のそばへと歩み寄り、銀貨をかざし、軽く温める。
封蝋にそっと銀貨を当てると蝋が柔らかくなり——パリッと音を立てて封が外れた。
——その刹那。
ふわりと香りが滲んだ。
深い森林を思わせるようなシダーの香りと、そこに淡く柑橘が混ざる。最後に鼻を掠めたのは、アイリスのやさしい余韻。
その香りは彼自身を思い起こさせるようだった。
「あら、とてもいい香りがいたしますわ。……カイゼル殿下らしいおもてなしですこと」
彼の心遣いがリリィの胸を優しくくすぐる。自然と笑みがこぼれた。
彼らしさが滲む文面には、身を挺して護ってくれたお礼がしたいと、丁寧な字で綴られていた。
リリィはすぐさま引き出しから便箋を取り出し、丁寧に返事をしたためていく。
走らせる筆は緩やかでありながらも、心は少し浮き足立っていた。
また次回
毎日が筋曜日




