私的な想い
暗殺未遂——そして官僚による支援金横領事件の後処理に、カイゼルは追われていた。
ふと目にした一文に、無意識に筆が止まる。
(リリィ・フェザースノウ嬢の迅速な対応により……か)
気づけば、思い浮かぶのは背中ではなく——あの穏やかな笑顔になっていた。
一介の令嬢でありながらも胆力に満ち、何より人々を想う姿勢に頭が下がる。
強さを誇示するのではなく、ただ護るために使う。
(そんな姿も……好ましいと感じている)
王族であるがゆえに、私的な感情で動くことが御法度であるのは重々承知だ。
(公的ならば……許されるだろうか?)
普通に会えないのならば理由を作ればいい。
そんなことを考えてしまう自分に、思わず苦笑いが漏れた。
——執務室にノックの音が響く。
いいタイミングで来たなと、口元を緩めて「どうぞ」と促した。
「失礼致します」
恭しく室内に足を踏み入れたのは、秘書であり幼馴染のディーンだった。
王族と臣下という関係でありながら、互いに遠慮のないやり取りができる数少ない相手だ。
「来て早々で悪いが、頼みたいことがある」
ディーンはカイゼルの顔を一目見るなり、顔をしかめた。
「うわっ、その笑みをするときは大体厄介な事ばかりではないですか……」
嫌そうにしながらも資料を渡すディーンに、カイゼルは軽く笑みを返す。
「そう言いながらも、毎回やり遂げてくれるではないか」
「カイゼル殿下の願いを無下に出来る部下なんているとお思いですか?」
「……それもそうだな」
「それで、何をお望みでしょうか?」
「王宮付きの調香師に、この香りの調合を頼みたい」
「調合するだけなら……簡単では……?」
差し出されたメモを受け取り、ディーンは首を傾げる。
「それを封蝋に仕込みたい」
「なっ!?そんなの聞いたことありませんよ!!」
「これを数週間で成し遂げてほしい」
「はぁっ!?数週間で!?」
「ああ、頼んだ」
ぶつくさと「やっぱり、厄介な案件だった!!」とディーンが嘆く。
そんな彼を横目に——手紙を受け取ったリリィの反応を思い描きながら、カイゼルは口元を綻ばせた。
いよいよ二人の関係が少しずつ変化していきます
また次回
毎日が筋曜日!




