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事件の根源

王宮の応接室には、重苦しい空気が漂っていた。


ソファに着席しているリリィの向かい側にはルドルフ。そして、彼女たちを見守るように、主賓席にはカイゼルが腰を据えている。


黒幕であったグレインが捕まったことにより、事件は終息したかに見えた。だが、リリィはそうは考えていなかった。


事件の要因となった根源に目を向けなければ、いずれ同じ過ちが繰り返されてしまう——彼女はその思いに突き動かされるように、カイゼルにルドルフとの面会を願い出ていた。


「本日はお集まりいただき、誠に感謝申し上げます」


リリィは二人に対し、深々と頭を下げた。


ルドルフの身なりは一糸の乱れも許さぬと言わんばかりに、整えられている。

彼は礼を述べたリリィに対し鋭い視線を向けながら言い放った。


「カイゼル殿下からの召集ですよ。応じるのは当然だとは思いますがね」

「ええ、反論の余地もありませんわ」


皮肉のこもった言葉に微塵の動揺もみせず、リリィはさらりと返す。


「——しかし、貴女も同席とは意外ですね。リリィ・フェザースノウ公爵令嬢」

「直々に、ルドルフ宰相様と対話させていただきたく存じ上げましたので……」


リリィに続いて、カイゼルが口を開いた。


「ルドルフ宰相、あなたの忠誠は確かに本物だ。だが、その忠誠が今、民を苦しめている」

「国のために尽くしてきた。なのに、それが罪だと申されるのですか?」


感情を抑えた問いかけだったが、その声には静かな憤りが滲み出ていた。


「罪ではありません。けれど、守っていくとは壊すことではないはずです。……あなたの印章のもとで、多くの支援金が横領されていました」

「馬鹿な。私が私利私欲で動いたとでも?」


ルドルフは眉をひとつ動かしただけで、冷然と否定する。


「それは、重々承知しております。ですが、あなたを信じていた者が事を起こしていたのです」

「……信じていた?」


彼は息を呑み、眦を吊り上げた。


「こちらをご覧ください」


リリィは報告書の束を差し出した。彼はそれを受け取り、黙したまま頁を捲る。


——やがて、深いため息とともに、報告書をリリィへと押し返した。


「……くだらない。法を越えてまで理念を貫いた先に何が残る」

「国を想うということは、ただ守ることではありません。時には、大きな改革も必要になります」


リリィは言葉を区切るように軽く息をつき、静かに続けた。 


「それを、心に留めておいてほしいのです」

「心得ましょう。……しかし、貴女のようなご令嬢に言われるとは思いもしませんでしたがね」 


ルドルフの眉間にわずかな苛立ちが刻まれ、報告書を睨みつけた。

胸の内には己の足を引っ張ったグレインへの反感が渦巻いている。


「……そうですか。その言葉を拝聴できただけで安堵いたしましたわ」

「つまるところ、釘を刺しに来たというわけですか……」

「それは、ご想像にお任せいたしますわ」


彼はその返答に鼻を鳴らした。


「ルドルフ宰相にも、また力添えを頼むかもしれない。……その時は頼む」   


いつか口にした言葉にさらに含みを込めながら、カイゼルは皮肉な笑みを浮かべる。

ルドルフは彼の意図を瞬時に汲み取り、眉をぴくりと動かした。


しばしの沈黙が室内に漂う——渋い顔をしたルドルフは観念したようにあの時と同じ言葉を返す。


「……お任せを。殿下のご期待以上に働いてご覧にいれましょうとも」

「頼もしい限りだ」


カイゼルは彼の返答を耳にすると、満足気に口角を上げた。

また次回

毎日が筋曜日!

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