答え合わせ
「それでは、答え合わせといたしましょうか。孤児院への支援金は基本的に王室から直通です。ですが、施設の維持や修繕といった経費だけは財務局を通す形でした。そして——そこにこそ、あなたの仕掛けが潜んでいた」
リリィは机上に一枚の書類を置いた。
「こちらは、孤児院修繕補助金交付申請書です。表向きは管理費として孤児院の壁の補修、屋根の改修が申請されていました。ですが、現地には修繕の記録も請負業者の足跡もない」
彼女は鋭い視線をグレインへと向ける。
「他の名目でも管理費が引かれていました。帳簿だけが動き、お金はどこか別のところに消えていたのです」
リリィの指先が、書類の印章欄を一度だけ強く叩いた。それは抑えていた怒りが、一瞬だけ形を取ったようだった。
「ご存じで?ルドルフ宰相様の印影は春以前の書類に比べて、印の傾きや圧が異なっておりましたの」
「なん……だと?」
「ルドルフ宰相様は几帳面な方のようです——真っ直ぐに、丁寧に整えられた印影がその性格を如実に物語っていますもの」
「はっ!そんなものが何になるというのだ!」
少しの動揺をみせはしたが、彼はすぐさま彼女の指摘を鼻で笑い、一蹴した——しかし。
「そうおっしゃられると推測いたしましたので、事前にそちらの朱肉に特殊な蛍光粉を仕込ませていただきました」
捺印されたばかりの許可証を手に取り、リリィは彼の隣へ歩み寄る。
彼女の圧に押されるように、グレインは数歩ほど後ずさった。
リリィは彼がよく見えるように目線の高さまで紙を上げ、窓から差し込む光明の下へかざしてみせる。
「通常の状態では変化が見られませんが……月明かりの下では——ほら、この通り」
捺印されたばかりの印影は、彼の罪を白日の元へ晒すかのように淡く光を放っていた。
グレインはその光景に刮目し、ぐっと歯を食いしばった。
「こちらが、あなたがルドルフ宰相様の名を騙り、印を偽造していた何よりの証拠ですわ」
決定的な裏付けを目の当たりにしたグレインは顔を真っ赤にさせ、拳で机を殴打した。
「理想の国を築くために手を汚して何が悪い!あの方の理想を実現するために、私は動いたのだ!」
怒号を飛ばしながら、勢いのまま語り続ける。
「貧困も、孤児も、すべては過渡期だ。犠牲なくして進歩などない!ルドルフ宰相閣下が掲げる秩序こそ——本物の王政だ!」
「……犠牲、ですの?」
聞き捨てならない言葉に、リリィの眉がピクリと反応した。
また次回
毎日が筋曜日!




