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単独潜入

夜半をとうに過ぎた屋敷は、物音ひとつしないほど静まり返っていた。


灯の落とされた執務室——そこには、闇に溶け込むように息を殺しながら動き回るノエルの姿があった。


部屋の中には、古い紙とインクの匂いがわずかに残っている。

カーテンの隙間から差し込む月明かりが、机の端を淡く照らし出す。


(——私の勘ですと、この辺りですかね)


ノエルは月光を頼りに、鍵穴の位置を指先で探った。


針金を鍵穴に差し込み、静かに回すと——カチリと音が響いた。

引き出しを開け、中を確認する。目的の物は、しっかりと入っていた。


(すぐに見つかりそうなところに隠してあるなんて……印章の押し方といい、杜撰ですねぇ)


引き出しを取り外し、端から端まで漁る。


(他には書類に、銀の鍵ですかぁ。大きさ的にドアのものですかね。悪人によくあるのは、隠し扉……)


ノエルは引き出しの鍵を締め直し、立ち上がる。

そのまま、室内をくまなく観察しながら歩く。


真っ先に目についた本棚まで歩み寄り、視線を鋭く走らせる。


(……ん?この本棚、備え付けというより壁と一体化しているような……)


試しに本棚自体を手で押してみる。すると、するりと外開きのドアのように動き、乾いた木の軋む音がわずかに響いた。


ノエルは確信を胸に、その場で静かにニヤリと微笑む。


中を覗き込んでみると、人が二人ほど並び立つことのできる空間。

その先には、地下へと続く石造りの階段があった。


壁際では蝋燭の火が淡く揺れ——誰かが、つい先ほどまでここを使っていたかのような気配が残っていた。


ひんやりとした空気を肌に感じながら、すぐさま靴を脱いで手に持つ。足音を立てないよう慎重に、忍足で下りていく。


最下部まで辿り着くと、目の前には真っ直ぐな地下道が通っていた。


(……睡眠薬は効いているはず。彼は朝まで目は覚さないでしょうしね)


閉鎖的な道を歩き続けること——約数分。


通路の奥には、先を封鎖するかのように扉がポツンと立っていた。


神経をより研ぎ澄ませながら、ゆっくりと歩み寄る。ドア先に人の気配はなく、そこには静寂だけが漂っていた。


(この鍵穴には……さっきみた鍵を使うのでしょう。どれどれ……)


屈んで穴を覗き込んでみる——扉の先では、上へと続く階段の影が薄っすらと浮かび上がっていた。


執務室からの距離と方角から、大体の現在地を即座に割り出す。

ノエルは覗くのをやめると、わずかに顔を歪めた。


(階段の先にある小屋に、リリィ様たちを貶めた奴らを匿っているのでしょう。……まったく、ここの主人は根っこから腐っていやがりますねぇ)


ノエルは踵を返すと——胸の奥で渦巻く憤慨を抱えながら、蝋燭の灯を背に闇へと溶け込んでいった。





リリィはマチルダを連れ立ちながら廊下を歩いていると——背後に人の気配を感じ、静かに振り返った。


「ノエル、どうでしたか?」

「引き出しには例の物、そして本棚に仕掛けがあって隠し扉がありましたよぉ。地下通路を通った先には小屋もありました。証拠もバッチリです!」


早く褒めてほしげにノエルは期待の眼差しをリリィへと向ける。その表情は重めの前髪越しでも伝わってきた。


「ご苦労様です、ノエル。引き続き潜入を続行しつつ屋敷内が崩壊する前に使用人たちに接触し、新たな職場の斡旋をお願いいたしますわ」


ノエルは「うはは」と喜びの声を上げながらリリィに言う。


「リリィ様は優しいですねぇ。新たな職場の斡旋までなんて」

「当主の失速は、使用人たちの職を奪いますわ。わたくしが彼を追い詰めるのならば、そのくらいは当然の行いですわ」 


その言葉にノエルは、頭を撫でられながら、ますますリリィへの尊敬の念を深めた。


また次回

毎日が筋曜日!

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