4.震える肩に大きな手を添えて
「あら……やれやれ」
リリィは肩をすくめると、呆気に取られている令嬢の脇をすり抜けて生垣へと歩を進める。
頭から突っ込んだままぐったりとしている令息を軽く引き抜き、片手で小脇に抱え上げた。
「……っ」
背後から、掠れるような息が聞こえた。
リリィがそっと振り返るとそこには、まだ顔を強張らせた令嬢がこちらを向いて立っていた。
怯えが抜け切らないその瞳は、リリィを見つめながらも微かに震えている。
「……大丈夫よ。もう怖くないわ。腕に痛みはあるかしら?」
リリィは穏やかな声をかけながら、令嬢にゆっくりと近づいた。
威圧感を与えぬよう、片手を少し開いて見せながら、膝をだいぶ折って目線を合わせる。
「いっ、痛くはありません……。こ、怖かった、です……っ」
彼女の声は震え、今にも泣き出しそうだった。必死に堪えているのが伝わってくる。
腕に痛みがないのであれば、ひとまずは安心だとリリィはほっと胸をなでおろした。
「ひとりで、ちゃんと立っていて偉いわ」
リリィはにこりと微笑み、彼女の肩にそっと手を添える。
その手のぬくもりに、彼女の体から力が抜けていくのが伝わってきた。
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