王宮の屋根の上で
帰りの馬車に揺られながらリリィは向かいに座っているノエルに声をかけた。
「ノエル。今夜、財務局周辺の監視をお願いいたします。犯人は必ず証拠品を隠しに動き出しますわ」
「かぁーしこまりました!久々の張り込みですね。腕がなりますよぉ」
ノエルは嬉しそうに右手で左肩を押さえ、左腕をぐるぐると回した。
そのままフェザースノウ邸へ戻った二人は、リリィがヴァルターへ報告に向かい、一方ノエルは静かに潜入の準備を整え始めていた。
夜の王城は、深い闇と静寂に包まれている。
ノエルは衛兵の視線を避けながら、屋根の死角から財務局周辺を見張っていた。
隣接する裏手には財務局専用の倉庫がある。
備品の一時保管場所で、出入りの際には必ず記帳が必要な場所だ。
しばらくすると倉庫へと続く扉が開き、小さな木箱を抱えた若い男が慌ただしく姿をあらわした。
「リリィ様、ビンゴです」
ノエルは小さく呟き、猫のように目を細める。
再び倉庫から出てきた男が去っていったのを確認したノエルはひらりと身を翻し、地面へと舞い降りた。
「さてさて、目的の物を見つけたらこれを振りかけますよぉー」
懐から出した小さな革袋を取り出し、にやりと微笑んだ。
翌日の昼を少し過ぎた頃——穏やかな陽光が窓辺から差し込み、室内を柔らかく包み込んでいた。
リリィの私室に軽いノック音が響き渡る。
「失礼いたしまぁーす」
返事を待たずに扉を開けてくる人物は一人しかいない——案の定、調査から帰ってきたばかりのノエルだった。
「王宮の屋根の寝心地はいかがでしたか?」
リリィは軽く冗談を交えながら彼女を見遣った。
「いやぁ、いい塩梅の硬さでよく眠れましたよー」
のんきな返事をしながら、ノエルは報告書を差し出した。
「昨晩、リリィ様の推測通りに証拠品が入っていると思しき小箱を倉庫に運び込む管理官を確認しました」
「はやり、動きましたわね」
リリィの声が低くなる。
「ですが、調査したところ彼は新任で普段から雑用ばかり押し付けられているようでした。おそらく今回も、命じられた通りに動いただけかと」
「つまり——彼は限りなくシロ、ということになりますわね」
リリィは思考を巡らせながらソファに腰を下ろした。ノエルは当然のように向かいの席へ腰掛け、マチルダが用意した紅茶とクッキーを頬張った。
「ここからどういたしましょうか。潜入?密偵?それとも黒幕を締め上げてみせましょうか?」
「ノエル、まだその段階には早いですわ。……もう少し泳がせてみましょうか」
「はぁーい」
ノエルの返事を聞きながら、リリィは静かに紅茶を口にした。
また次回
毎日が筋曜日!




