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黒い影

報告書に目を通す男の眉間に、深い皺が刻まれる。


静まり返った執務室に紙をめくる音と、時折漏れる低い息だけが響いていた。


「……やはり、第一王子カイゼルは革新派か」


手元の報告書には、「貴族の特権縮小」や「平民の生活改善」に関する提案と進捗が淡々と記されていた。


それらは、男にとっては許しがたい内容だった。


「この国は、積み上げた伝統の上に成り立っているというのに……」


手の中の紙が、グシャリと音を立てて潰れる。


彼には国のために尽くしてきた自負がある。

誰よりも、正しい在り方を守ってきたという自信も。


だからこそ、それを壊そうとする若き王子と、その背後にいるであろう“あの女”の存在が許せなかった。


「——リリィ・フェザースノウ」


彼はその名を、毒でも吐くかのように呟いた。


「あの方の理想も、今までの王政すらも崩すつもりか。ならば、あの娘もろともカイゼルを排除するしかあるまい……」


男はゆっくりと立ち上がり、机の鍵付きの引き出しを開ける。

中から取り出したのは、鈍く光る鉄の鍵。


それを手に取り、確かめるようにしばし見つめたのち——壁際の一角にある本棚を押すと、外開きのドアのように動いていく。


扉の先には石造りの冷たい階段が、地下へと続いていた。


「……守るべき理想と正しき秩序のために、私は手段を選ばぬ。まずは、あの女から……」


彼は決意の滲んだ足取りで階段を下りていった。

また次回

毎日が筋曜日!

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