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蔓延る闇

早々に孤児院をあとにしたリリィは、フェザースノウ邸へと戻るため馬車に揺られていた。


窓の外に流れる景色を見つめながらも、その眼差しは鋭い。


(この事態は、わたくしが孤児院の支援に関わっていたから発覚しましたが……もし、誰も関わりをもっていなかったら)


嫌な想像が脳裏を過り、ゾッとするような悪寒が背筋を走った。


「孤児院だけではなく、権力のない人々からも管理費と称してお金をせしめていたとしたら……かなりの額になりますわね」


視線を前へと戻すと、深いため息が自然と漏れた。


(このお金は私腹を肥やすためか。あるいは、誰かを貶めるためか……もしその敵意の矛先が王族に向けられているのだとしたら——)


リリィは左右に頭を振り、浮かびかけた不穏な考えを振り払った。


(そうならないためにも、わたくしが動かなくては)


再び強い意志を宿した瞳で、リリィは馬車から見える景色を見つめた。


やがて馬車がフェザースノウ邸の門をくぐる。

静かに止まる車輪の音とともに、リリィは決意を胸に扉を押し開いた。




執務室の扉を数度叩くと室内から「どうぞ」と野太い声が響いた。


「お父様、失礼いたしますわ」


リリィは重厚な造りのドアを軽やかに開け、足を踏み入れた。


リリィの父——ヴァルター・フェザースノウは、中央に置かれた長机に資料を広げ、書類を片手に足を組みながらリリィを見遣った。


「で、何の用だ?リリィ」


声は穏やかでありながらも威厳を孕んでいる。

その低い声音に、室内の空気が一瞬だけ張り詰めた。


リリィは静かに向かい側のソファへと腰掛け、口を開いた。


「お父様にご相談がございますわ。そして、わたくしに賛同してくださいますのなら手を貸していただけないでしょうか?」

「それは内容にもよるな。話してみなさい」


リリィの雰囲気から察したヴァルターは傍に控えていた侍女に下がるように命じた。


侍女が部屋を後にし、気配が遠ざかっていったのを確認したリリィはヴァルターに事の成り行きを語り始めた。 


「まず、結論からお伝えいたしますわ。お父様の協力を仰ぎ、孤児院支援の監査を建前に王宮資料庫の閲覧許可を得たいのです」

「……ほう、それは何故?」

「お父様もご存知の通り、わたくしは孤児院に支援を行っていますわ」

「そうだな」

「そちらの倉庫には子供たちへの支援物資が運ばれます。しかし、冬にも関わらずその量に物寂しさを感じとりました」


リリィは倉庫内を思い返しながら続ける。


「そこでヘレナ院長様に確認いたしましたところ、今年の春頃から支援金の一部を管理費と称して差し引いている管轄があることが発覚いたしました」


ヴァルターの深紅の眉がぴくりと反応を示す。全てを伝えなくとも理解してくれる男だ。

すぐにヴァルターはリリィの言いたいことを察してくれた。


「なるほどな。それで資料庫の閲覧許可か……」

「ええ」


しばしの沈黙が二人の間に落ちる。ヴァルターは考え込むように渋い顔をしながら俯いた。


(いつもの沈黙ですわね。熟考するふりをしますが、いつだって答えは——)


「まったく……娘にここまで言わせるとは、王都の役人も落ちたものだ」


顔を上げたヴァルターの表情には面白いものが見れそうだといいたげな笑みが浮かんでいた。


「いいだろう、リリィ。俺の権力を使わせてやる。だが、その様子だと事が収まるまで王族には全てを明かさない気か?」

「ありがとうございます。ええ、表向きは調査として報告書は上げますが……」

「そうか。では、調査にはノエルを連れて行きなさい。現場を視察するのはリリィとノエルの二人で行うこと」

「はい、お父様」


リリィが納得したのを確認したヴァルターはサイドテーブルに置いてあったベルを鳴らした。


ものの数分で部屋をノックする音が響いた。


「お呼びですかー?潜入ですかー?」


返事をする前に間延びした声を出しながら、一人の侍女が扉を開けて入ってきた。


「ノエル、仕事だ。リリィと一緒に王宮内に蔓延る闇を暴いてこい」

「かぁーしこまりました!もちろん、詳しい話は紅茶と焼き菓子付きですよね?」

「もちろんですわ。よろしくお願いいたします」

「かぁーしこまりました」


リリィの答えにノエルは満足そうにニヤリと微笑み、重たい前髪の隙間から覗く目を細めた。


また次回

毎日が筋曜日!

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