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これは不整脈ですわ

「——ということがありました。その後、雨が止んでから屋敷に帰り、医者をお呼びいただいて検査をしてもらったのですが健康そのものと言われまして……おかしいですわよね?」


リリィは小首を傾げながら不思議そうにしている。


そんな彼女の反応を見て、アメリアは体をブルブルと震わせながら口を開いた。


「それは……おかしいです!」

「そうですわよね。やはり、不整——」

「違います!おかしいのはリリィ様の『解釈が』です!」

「どういうことですの?」


心の底から言っている意味がわからないというようにリリィは眉を寄せた。


「リリィ様はカイゼル殿下の笑顔を見て胸が高鳴りましたよね」

「ええ」

「では、それはどういう意味でしょうか?」

「不——」

「違います!それは恋ですよ!」


アメリアは間髪入れずにつっこみながら椅子から立ち上がり、前のめりになった。

彼女の気迫に押されるようにリリィは少しだけ背中を背もたれに寄せた。


「それは完全に恋の症状です!リリィ様、この状況でカイゼル殿下の笑顔を思い出してください」


アメリアの言葉にリリィは素直にカイゼルの太陽のように温かな笑みを思い出した。


全身の筋肉にグッと力が入り、次第に心臓が早鐘を打ち始める。


「どうですか?何か変化はありましたか?」

「全身が漲りますわ!」

「わぁ……独特な表現ですね」


アメリアは求めていた返答と違ったのか若干、引いた笑みをみせながら椅子に座り直した。


「本当のことですわ……全身を巡る血液が沸騰したかのように熱くなり、筋肉の線が硬くなりました。アメリアもそうでしょう?」

「いや、ごめんなさい。わからないです……多分そうはなってないかもです」


ぶんぶんと顔を左右に振りながらアメリアは否定する。


「そうですか……」


心を落ち着かせるようにリリィは紅茶を一口飲んだ。


「……でもアメリア、冷静に考えてください。お相手は王族です。簡単に恋だ、なんだと騒げる相手ではありませんのよ。それにまだ、そうとは決まったわけではありません」


リリィの言葉に喜びかけていた心がグッと下がっていく。


「それは……そうですけど……」


俯きかけていた視線を上げ、アメリアは続ける。


「でも!恋がどういうものなのかは知っておいて損はないと思いますよ!」

「そうでしょうか……」

「そうですよ!……では、僭越ながら私がリリィ様に恋というものをご教授します!」


アメリアは胸を反らし、こほんと咳払いをした。


「恋とは理屈では考えられないことが、たくさん起きるんですよ!今まで聞こえていた音が遠のいて、世界に二人だけ取り残されたみたいに感じたり、その人のことを考えるだけで胸がドキドキしたりして……!」

「……音が、遠のく……」


リリィは小さく呟き、指先で顎を撫でながら思い返す。


(雷が鳴っていたあの日。音がすうっと消えて、彼の姿だけが浮かび上がるような瞬間があったような……)


「……ですが、それでは筋が通りませんわ」

「えっ、まあ……そうですけど……」

「物事には何事にも筋が通っているべきです。理由も根拠もなく心が揺れるなど理解し難いですわ」

「そ、そういうのが……恋、なんですよ!」


アメリアは狼狽えながらもそう断言した。

リリィは「やはり、まだ分かりませんわ」とこぼしながら、紅茶を飲み干した。


「いつかきっと、リリィ様にも分かる日が訪れますよ」


そんな彼女を見つめながらアメリアは呟き、楽しげに微笑んだ。


二人のお茶会はこれにて閉幕

また次回

毎日が筋曜日!

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