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料理で鍛えた筋肉

子供たちが選んだ本を使用人たちに託し、リリィたちは書庫を後にすると厨房へと向かっていた。


「皆さん、次に向かいますのはフェザースノウ邸の食を司る厨房ですわ」

「やったぁ!私、料理しているところ見たかったの!」


リゼットが嬉しそうにリリィを見上げる。

そんな彼女に顔を向けながらリリィも答えた。


「料理長には伝えてありますのでゆっくり見ていってくださいね」

「楽しみ!」


公爵邸の厨房は、来客の目に触れることのない最奥部。一階の裏手に位置していた。


広々とした食堂や応接室からは遠く離れ、正面玄関からでは到底たどり着けないような右へ左へと複雑に曲がった廊下の先にある。


厨房の入口。飾り気のない分厚い木製の扉の前でリリィは足を止めた。


「さあ、ここが厨房ですわ」


ドアを押し開けると火の匂いと香草の香りが子供たちの鼻をくすぐった。


「わぁ!」


彼女たちの視線の先——大きなかまどが壁際に並び、中央には長い調理台。壁には鉄鍋などの調理器具が整然とかけられている。

忙しなく料理人たちが厨房内を行き交い、野菜を刻む音や、鉄鍋からはくつくつと煮たつ音が響き渡っていた。


そんな中、奥からこちらへと歩み寄ってくる人物がいた。


黒髪は白髪が目立ち始めているが、調理の邪魔にならぬよう短く刈り込まれている。頬骨が張ったごつめの輪郭につり上がった灰色の瞳。一文字に結ばれた口は笑うことを知らないかのようだ。


厚い胸板と太い腕を備えた、使用人の誰よりも大きな体格は、まるで厨房そのものを支える柱のようであった。


リリィの周りにいた子供たちは彼を見上げ、ごくりと唾を飲み込む。やがて、不安げにリリィのドレスをぎゅっと掴んだ。


「リリィお嬢様、お待ちしておりました」


彼はリリィの前で立ち止まり、洗練された一礼をして、にこりと優しげに微笑んだ。


そんな仕草に驚いた子供たちは、リリィのドレスを掴んでいた手をそっと離した。


「皆さん、こちらが料理長のオーギュスト・ハインツ様ですわ」


リリィの紹介に彼は再びペコリと頭を下げた。

彼が口を開くよりも先にリゼットがオーギュストに話しかけた。


「……意外と怖い人じゃないのね」


彼女の言葉にオーギュストは一瞬だけ目を見開き、苦笑いをしながら頬を掻いた。


「はい。その……自分で言うのもなんですが、根は優しいんですよ」

「……こわくない?」


体をそわそわさせながら、彼女よりも年下の女の子がリゼットに聞く。


「大丈夫。怖くないって!」


リゼットは女の子の目をじっと見つめながら微笑んだ。

女の子は肩の力をふっと抜いて、「よかった」とこぼしながらへにゃりと笑った。


二人の安堵がだんだんと周りの子供たちにも広がっていく。


「料理長ってことは一番偉いんだな!すげぇ!」

「おいしい料理がつくれるってことだよね?」

「……どんなお料理をつくるかみたい……」


子供たちは一斉にオーギュストに質問を重ねたり、話しかけたりし始めた。


「あらあら、打ち解けるのが早いこと」


少し戸惑っているオーギュストを見つめながら、その光景にリリィはなんだか自分のことのように胸の中が温かさに満たされた。


子供たちは厨房の様子を眺めたり、つまみ食いをさせてもらったりと楽しい時間を過ごした。


彼らとの別れ際には、人参のケーキがお土産として渡され、子供たちは大喜びだった。


また、次回

毎日が筋曜日!

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