不穏な空気を纏った手紙
──カイゼルと過ごしたあとも、穏やかな日々が続くと思われた。
しかし、そんな未来はリリの元に届いた一通の手紙によって覆されることになる。
「……ロゼリナ様」
手紙を手にしたまま、リリィはぽつりと呟いた。
ロゼリナ・グランシェから茶会の招待状が届いたのは突然のことだった。
頭の中で素早く令嬢一覧から該当の名前を拾い上げる。情報によるとリリィよりも年上で、ほんの少し性格に癖のあるご令嬢だ。
「……手紙の内容は棘もなく至極真っ当ですわね……」
だが逆にその完璧さがどうにも胸の中をざわつかせた。所謂、”女の勘”というやつだ。
女の戦に呼ばれたのならば、こちらもそれ相応の覚悟で挑むしかない。
小さめのレターセットに返事を書き終えたリリィは、それをそっと封筒に収め、封蝋を押した。
そしてふらりと部屋を出て、テラスに立った。
雨上がりの湿った空気を肌に感じながら、リリィは外の空をじっと観察した。いまだに曇天の空が広がっていたが夜にかけてはもう雨は降りそうにない。
「ファウスト、いらっしゃい」
指笛が屋敷内に鳴り響く。
数瞬の静寂ののち、遠くから鋭い羽音が返ってくる。
黒い翼を広げ、風を切り裂きながら現れたのはリリィの相棒の鷹——ファウストだった。
スピードをゆっくり下げながら、テラスの手すりへと華麗に舞い降りる。
その鋭い瞳は主人からの指示を待つように、リリィをじっと見つめている。
「お手紙をお願いできますでしょうか?送り先は、”グランシェ家”までお願いいたしますわ」
ファウストの足に小さな革製のポーチを取り付け、その中に丁寧に手紙を入れる。
まるで「心得た」というかのようにファウストはリリィの前で高らかにひと声鳴いてから飛び立った。
「本来、お茶会とはこういった駆け引きを楽しむ場……なのでしょうね」
ファウストの姿が空の彼方に消えるまで見送りながら、リリィは小さく微笑んだ。
強き主人公には、強き相棒
また、次回!
毎日が筋曜日




