カイゼルからリリィへ
「カイゼル殿下︎、お待たせいたしましたわ」
涼やかなその声にカイゼルが振り返る。
向かい側の小道から優雅に歩いてきたのは、リリィだ。頭には花の装飾が施された麦わら帽子を被り、若草色のドレスを纏っている。
隣には、涼しげな顔のマチルダが静かに寄り添う。
「いや、俺もさきほどついたばかりだ」
カイゼルはリリィに向かってそう言いながら微笑んだ。彼は一見すれば一人でいるように見えるが、護衛が彼らから見えない位置でしっかりと控えている。
褒章の儀の際、セラフィナに言われた通りカイゼルはリリィへのお礼を果たそうとしていた。
彼女が望んだのは王都から少し離れた場所にある、静かな観光地の湖へ一緒に訪れることだった。
柔らかな風がリリィの髪を優しく撫でていく。
「お天気もよろしくてよかったですわ」
風にさらわれないように片手で帽子を押さえ、空を見上げながら目を細める。
初夏のまだ日差しが強くなる前の時期に、この湖畔へと訪れることができた嬉しさにリリィはふっと微笑んだ。
「早速だが、行こうか」
「ええ。楽しみですわ」
カイゼルの声に視線を前に戻し、並んで歩き出す。
「……ところで、リリィ嬢は今日も徒歩で?」
「ええ、そうですわ」
「運動がてら、ってやつかな?」
「ふふっ、ご名答ですわ」
少しの沈黙——だが、それさえもリリィの中では心地よさが芽生え始めていた。カイゼルはリリィのことを尊重しながら接してくれる。それが何よりも嬉しかった。
穏やかな空気が二人の間に流れていく。
リリィは湖を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
「わたくし、ここのスワンボートに乗るのが好きでしてよ?水飛沫を上げながら水面を進むのがとても楽しくて……」
「水……飛沫……?それでは、このあと一緒に乗ろうか」
(スワンボートってそんなに水飛沫が上がるようなものだったか?)
カイゼルはリリィの言葉に首を傾げながらも、彼女に提案した。
「よろしいのですか?楽しみですわ」
リリィは嬉しそうに微笑みながら声を弾ませた。
ボート乗り場まで歩くと、そこにはすでに何人もの貴族のカップルが楽しそうにボート選びにいそしんでいた。
若い男性の係員がリリィたちに気づき、優しげな笑みを浮かべながら近づいてきた。
「これはこれは、リリィ様。そして、カイゼル殿下も」
「ライルさん、ご機嫌よう。お久しぶりですわ」
リリィは上品にカーテシーを決める。
お互いに挨拶を交わしてからライルが話しだす。
「リリィ様がいらっしゃったということは……。すぐに、準備を始めますね。少々、お待ちください」
「お願いいたしますわ」
ライルはそそくさと、岸辺に建てられている小屋に向かって歩いていった。
「あれとは、なんだろうか?」
カイゼルは疑問に思いながら、遠ざかっていく彼の背中を見つめる。
「ふふふっ、それは来てからのお楽しみですわ」
しばらくすると、ライルが一羽のスワンボートを必死に漕ぎながら戻ってきた。
「なんだ……これ。大きいな……」
カイゼルは目の前に停められたスワンボートを驚きながら見上げた。
湖編がスタートです
湖でもリリィらしさフルスロットルで進みます!
毎日が筋曜日!




