華やかで、時に残酷な戦いに向けて
「リリィ嬢、お待たせしたな。これが例の品だ。じっくり観察して感想をくれるとありがたい」
ザムエルは布に包まれている試作品をテーブルの上に置いた。
「ありがとうございます」
かけられた布を丁寧にほどいていく。中からあらわれたのは、ずっしりと重量感のある鋼鉄製のティーカップだった。
リリィは持ち手を手に取って軽く回し、指先で触れる部分を確かめてから語り出した。
「こちらの角度を、ほんの数度だけ下げてみてはいかがかしら?今のままですと、指先で支える感覚になりますけれど……少し下げれば、手のひらで受けるように持てますわ」
ザムエルが眉を上げながら感心する。
「……ほぉ、そこまで気づくとはな。確かに、手の中での収まり具合が違ってくるな」
「あと、こちらの接合部分。内側の微細な凹凸を均一にすることによって使用時に負荷がかかりにくくなりますわ」
「なるほど、確かにそうだな。……そこは完全に盲点だったな」
二人のやり取りは、工房の分厚い扉越しでもかすかにもれ出ていた。
ちょうどその時、工房の前に王宮からの豪奢な馬車が停まった。
従者が恭しく扉を開けると、整った身なりの人物が地面に足を下ろした。
「ここが例の工房か」
「そうです、カイゼル殿下。本日はこちらの様子を——」
護衛が無造作に扉を開けようとした、その瞬間。
中からふわりと女性の涼やかな声が耳を掠めた。
「それに重心も安定しますし、余計な力を使わずに扱えますわ」
「さすがだな、リリィ嬢。改善してみるよ」
女性の声に続いて、職人なのだろうか渋めの男性の声が聞こえた。
彼が発した名前に驚き、カイゼルは思わず目を見張った。
「……リリィ嬢?武具かなにかの話……か?」
そう呟きながら、護衛に続いて店の中に足を踏み入れた。
工房の中央では親方と思しき人物とリリィが談義を繰り広げている。
リリィがこちらに振り返り、上品にカーテシーを決めた。
「あら、カイゼル殿下。ごきげんよう。再び、お会いできて光栄ですわ」
「リリィ嬢、ごきげんよう。……君は何故ここに?」
「わたくしは頼んでおいた試作品が出来上がったとご連絡をいただきましたので……」
「……試作品?何のだろうか?」
カイゼルはリリィの後ろにちらりと視線を向けたが、彼女の大きな肉体に阻まれ見ることはできなかった。
リリィは小さく微笑み、視線をそらしながらそっと答える。
「……少し、特別な道具を。わたくしにとって大切な戦さで使うものですわ」
「戦さ?」
「ええ。華やかで、時に残酷な……けれど、微細な機微がすべてを左右する——そういった種類のものですわ」
カイゼルは聞こえた内容に、わずかに首を傾げた。
「……なる……ほど?」
(華やかで、残酷?……それは戦さなのか?)
リリィの横ではザムエルが腕を組み、説明を聞きながら何度も頷いている。
今度はリリィがカイゼルに問いかけた。
「カイゼル殿下は、どうしてこちらへ?」
「俺は視察の一環としてこの工房を訪れたんだ」
「まあ!でしたら、わたくしはお邪魔になってしまいますわね」
リリィは口元に手を添えながら驚いたあと、さっと身の回りを整え帰り支度に取りかかった。
「待ってくれ、リリィ嬢!」
咄嗟にカイゼルがリリィを止めに入る。
「その……もし、よろしかったらでいいのだが。視察が終わったあと、一緒に帰らないだろうか?少し、聞きたいことがあるんだ」
カイゼルは真っ直ぐにリリィを見つめる。
覚悟を決めた彼の瞳は、もう揺れることはなかった。
まさかの工房で再びの再開を果たした二人……
カイゼルは今度こそ、影の真相に辿り着けるのでしょうか
また次回!
毎日が筋曜日!




