城下町は運動がてらに歩くもの
デビュタントデビューからはや数日後。
リリィは護衛も侍女もつけずに、一人で城下町を闊歩していた。
普通の令嬢であったならばこうもいかないが、彼女ともなると一人でも大丈夫だろうと両親は何も心配せずに見送るだけだった。
馬車で来るのもよかったが運動がてらに歩くのも、リリィは好きだった。
目的の場所は城下町の一角にある王立騎士団御用達の工房だ。そこでは武具や細工物と幅広く作られている。
古びた木製の扉を押し開けると、重厚な鉄の香りとともに機械油の鈍い匂いが鼻をくすぐった。
長年の使用により壁や梁は深い味わいを帯びており、その年季がこの場所の歴史と誇りを物語っていた。
室内には磨きこまれた剣や鎧のパーツが壁一面に整然と並べられている。
中央の大きな作業台には経験豊富な職人——ザムエルがどっしりと腰を据え、幾多の時を越えて培われた技術で細やかな手仕事に没頭していた。
一方、隅の方では若き職人たちが真剣なまなざしで技を受け継ぎ、鋼を打つ軽やかなリズムが工房に生気をもたらしていた。
「皆さん、ごきげんよう。本日も精が出ますわね」
リリィの声に中央で作業していたザムエルが手を止め、顔を上げた。
「……んっ?ああ、リリィ嬢じゃないか」
「例の試作品が出来たとお聞きしましたので……」
「そうだったな。ちょいと待ちな」
ザムエルが奥の棚を漁っている間、リリィはちらりと隣の作業台を覗いた。
そこでは若い職人が斧を手に、眉間に皺を寄せている。
「どうかなさったのですか?」
「いやぁ……ここの接合、どうにもうまくいかなくて。下手すると斧振ったときにバランスが崩れそうで……」
すかさずリリィが、指を差しながら助言する。
「ここの芯材、もう少し幅を持たせては?打撃の衝撃が柄に逃げやすくなりますわ」
「……芯材?いや、でもそれじゃバランスが……」
一瞬迷ったものの、試しに幅のある芯材へと変更して斧を振ってみる。
「……あれっ、手に吸いつく感覚が!なんだこれ、振り抜きも全然違う!」
彼の表情が明るくなり、リリィに尊敬の眼差しを向けた。
「……どこで覚えたんだ、あんな補強の仕方……」
遠巻きに見ていた別の職人が、二人のやり取りを眺めつつ、ぽつりとこぼした。
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