膝を曲げ、あなたとワルツを
向かいあったリリィとカイゼルの身長の差は、ヒールを含め十センチ以上は優にあった。当然、リリィの方がカイゼルより背が高い。
レースの長袖の下。ちらりと覗く前腕には、柔らかなドレスの印象を裏切るような力強さがあった。
ドレス越しにもわかるほどの引き締まった腹部と、無駄のない腰つき。
筋肉質でありながらも、くびれのラインはまるで計算されたかのような美しさ。
その鍛え抜かれた筋肉は、「コルセットなど必要ありませんわ」とでもいいたげな存在感を放っていた。
カイゼルは左手でリリィの右手を優しく掴み、もう片手を肩甲骨付近へ伸ばし——触れようとしたが、途中で空を切ったように止まり、宙で行き場を失った。
それに気づいたリリィは気を利かせるようにカイゼルの右手を取り、自らの腰へとそっと添えさせた。
彼女に気を遣わせてしまったことへの申し訳なさがまず浮かんだが、そうせざるを得ないほど二人の体格差は凄まじかった。手のひらから伝わってくる筋肉の硬さに、カイゼルは思わず息を呑んだ。
(なんだ、この腰は……まるで岩のように硬い。手も、より大きいんじゃないか?)
本人の口から真実を聞いていないため、推測の域を越えないが——もしかしたらこの手で、拳で。敵を屠っていたのかもしれない。
思いを巡らし始めたカイゼルをよそにリリィは優雅に微笑み、スカートの中で静かに膝を曲げた。
リリィからみれば小柄な王子——といっても男性としては身長が高い部類に入るカイゼルとのバランスを取るために、内腿と体幹で微調整を行い、ほんのわずかに身を沈める。
「ん?……目の高さが……」
急にリリィとの目線が真っ直ぐに交わり、カイゼルは思わず声に出していた。
「お気になさらず。……さあ、始まりますわ」
小さな気遣いに気づきつつも彼女にそう導かれ、音楽に合わせて二人はステップを踏み出した。
カイゼルはリードを意識しながらも、圧倒的な体格差を前に”導く”ことの難しさを痛感していた。
リリィがふと、カイゼルを見つめた。彼女の唇の端がわずかに上がる。
「カイゼル殿下。さすが、お上手ですわ」
「……リリィ嬢こそ」
お互いに微笑みあってはいたが、カイゼルは内心で困惑していた。
(……どうなっているんだ?膝を曲げているのに、こんなに優雅に踊れるわけがないだろ)
また次回
毎日が筋曜日!




