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グラスは三秒以内しか持てませんの

王族への挨拶が滞りなく終わると、式典は静かに次の段階へと移っていく。


挨拶を終えたあとも、二人の姿はひときわ目を引いていた。

遅れてやってきた令嬢たち。しかも、一人は噂のリリィ・フェザースノウである。周囲の視線は遠巻きに集まりつつも、誰も安易に声をかけようとはしない。


そんな中、アメリアは息を吐きながら手で胸元をそっと押さえた。


「はぁっ!国王陛下へのご挨拶……もう、足が震えるかと思いました!喉も、乾いてしまって……」

「では、飲み物をもらいにいきましょうか」

「はい!」


リリィに微笑みかけられ、アメリアも嬉しそうに笑う。二人は並んで会場の隅にある給仕台へと向かった。


周囲の人々がちらりと視線を送るが、彼女たちは気にする様子もなく自然な足取りで歩みを進めていった。


アメリアは軽く肩の力を抜くと、手にしたグラスをくいっと傾けた。


そんな彼女の様子を眺めつつ、リリィは指先の力加減に細心の注意を払いながらグラスを素早く手に取り——すぐさま煽る。


グラスの軸がピキキと嫌な音を立てる前に、給仕係が手にしていた銀盆の上にそっと置く。


リリィがグラスを手に取り、飲み干してから渡すまで——ものの三秒とかからなかった。あまりの速さに唖然としている給仕係をちらりとみてから、リリィは再びアメリアへと視線を向けた。


「リリィ様が隣にいてくださらなかったら……私、挨拶の途中で気絶してました」

「わたくしもアメリア様とご一緒できてよかったですわ」


アメリアは飲み干したグラスを給仕係に渡しながらリリィに聞く。


「あれ?リリィ様はお飲みにならないんですか?」

「わたくしは、もういただきましたわ」

「えっ?いつの間に……」


互いの緊張がようやくほどけたのか、二人の間には柔らかな空気が流れていく。

だが、その穏やかなひとときは、突如として背後からのざわめきによってかき消された。


「……えっ、ちょっと見て」

「王子殿下が……お二人とも?」


周りから聞こえた声に何事かと、リリィとアメリアも振り返る。


ざわめく令嬢たちの視線の先には、カイゼルと彼の弟である第二王子——シリルの姿があった。

静かな威厳を湛えたカイゼルと柔らかな笑みを浮かべたシリルは、迷うことなく一直線にリリィたちの元へ歩み寄ってくる。


カイゼルは彼女たちの目の前で歩みを止め、リリィを見上げて口を開いた。


「……リリィ嬢」


カイゼルの声は穏やかで、けれどひときわよく通る。


「みたところ、お一人のようだ。よければ、俺と一曲いかがだろうか?」


その言葉とほぼ同時にシリルもアメリアの前に立ち、優雅に手を差し出す。


「よろしければ、僕もご一緒させていただけますか?アメリア嬢」


場の空気が一瞬、凍る。

まさか二人の王子がリリィたちを直接ダンスに誘うなど、誰が予想しただろうか。


断るという選択肢は存在しないことをリリィもアメリアも、よく理解していた。


「……光栄ですわ」

「よっ、喜んで……!」


二人は静かに頷き、それぞれに差し出された手をとった。


まるでそれを合図にしたかのように、会場内に舞踏の音楽が流れ始める。

次回は、リリィとカイゼルがダンスを踊ります!

一体どうなってしまうのか……お楽しみに

毎日が筋曜日!

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