か弱き令嬢?いいえ、筋肉です
「まさか、あの方が……?」
「嘘でしょう?あれが病弱とよばれていたフェザースノウ家の?」
「いや、噂ではもっと——美しいご令嬢と……ご令……嬢……?」
「『隣のご令嬢が』の間違いでは!?」
会場にいた令嬢たちは、思い思いに驚愕をあらわにする。
実のところリリィが貴族たちの前にその姿を見せたのは、このデビュタントが初めてだった。
茶会などには幾度か誘われていたが、「筋肉がまだ万全ではありませんので」——とはもちろん言えず、「体の具合が……」と濁して断っていたのだ。
それも相まって、両親が隠してしまいたいほどの美しさだの、病弱すぎて表には出せないだの、本当は存在していないなどと社交界では伝説のように噂が飛び交っていた。
誰もが、ただの“か弱き令嬢”だと思っていたその名の人物。それが圧倒的な存在感をもって、目の前に存在しているという事実を誰もが受け止めきれずにいた。
仕切り直すように、進行役が声を張り上げる。
「ええと……リリィ・フェザースノウ様!そして、アメリア・ローゼンクロイツ様です!」
二人は丁寧に一礼した。
目の前に立つリリィを見たベラミスと王妃——セラフィナはほんの一瞬だけ目を丸くしたが、すぐさま表情を整え、祝辞を述べた。
だが、セラフィナの目線は、しばしの間リリィの姿を観察するようにじっと留まっていた。
彼らに続いて玉座の横に控えていたカイゼルが立ち上がり、一歩進み出た。
「本日、この場に立たれたご令嬢方に心より祝意を贈ります」
形式的な言葉。しかし、その声はどこか硬い。
「新たに社交界へと足を踏み入れられた皆様が、それぞれの志と誇りを胸に歩まれますように」
そう言って一礼するカイゼルの視線が、一瞬だけリリィを捉えた。
その瞳がわずかに揺れる。
(……本当に彼女が……?)
記憶の中の”影”と、目の前に立っている令嬢の姿がカイゼルの中で少しずつ重なりかけていた。
また次回
毎日が筋曜日!




