暴走の要因
「リリィ、それで謁見の理由を聞いてもいいか?」
二人のやり取りを見守っていたカイゼルが問いかける。
リリィは静かに頷き、語り出した。
「カイゼル殿下は訓練場にて、魔力暴走には原因があるとおっしゃっていました」
「んん!……そ、そうだな」
意図的にではあるが、壁に追い詰められた時のことが脳裏をよぎり、カイゼルは咳払いで照れを隠そうとする。そんな彼をディーンは呆れた表情をしながら、横目で見つめていた。
二人の様子を疑問に思いつつも、リリィは続ける。
「わたくしに、心当たりがあります。それは……」
リリィがほんの一瞬、逡巡する素振りをみせると、カイゼルがすかさず言葉の先を促すように優しく声をかけた。
「……それは?言いにくいことなら、無理にとは言わない」
リリィは意を決したようにカイゼルを見つめた。
「それは、恋心です」
「恋……心?それは……誰への?」
唖然として言葉を失うカイゼルの腕を、ディーンがため息まじりに叩いた。
「何をいまさら……殿下へのに決まっているでしょう」
「いや、その……」
カイゼルは視線を彷徨わせ、どこか落ち着かない様子で言葉を探す。
「どう言えばいいのか……これまで、こういう話は、いつも俺の方からだっただろう?リリィから、はっきりと……その、想いを告げられるのは初めてで……」
カイゼルの反応に、リリィも今に至るまでの記憶を手繰り寄せ——。
(……降参、尊敬……あら?)
首を傾げた。
「とても大切なことを忘れていましたわ。わたくしは、降参と口にしただけで気持ちを伝えていませんでした……」
ディーンは呆れた顔を今度はリリィへと向けた。
「はぁ……二人して何やってるんですか……私は、とっくに想いを伝えあっていると思っていたんですけど」
「失礼ながら——」
そばに控えていたマチルダが一歩前に出て、穏やかだが有無を言わせぬ声で告げた。
「本日は感情の確認ではなく、魔力暴走への対処が目的のはずです」
三人は、はっと我に返ったように居住まいを正した。
「マチルダ、ありがとう。本題を見失うところでしたわ」
あのリリィでさえもカイゼルを——恋心を前にするとどうにも普段通りにいかないようだ。
「市民への護身術指導の際、カイゼル殿下はわたくしの周辺でおかしな現象が起きているとおっしゃっていました」
「そうだな」
「わたくしなりに、分析しましたところ……カイゼル殿下との触れ合いにあるようだと判明いたしました」
「……触れ合い」
「指導時に、身体の接触。昨日は、手首を掴まれました」
補足するようにマチルダが説明を引き継ぐ。
「リリィお嬢様は幼少期から感情のブレが少ない方でした。好奇心はあれど、どこか達観している部分がありました」
「つまり——それが仇になったと?」
「さようでございます。リリィお嬢様にとって殿下は初恋のお相手。それが、初めて心が大きく揺らぐ要因となったのです」
何事にも冷静で、決して動じることのない彼女が恋心に翻弄されている。
カイゼルは耳を赤く染めながら、口元を手のひらで押さえた。
喜ぶ場面ではないことは十分に理解している。
だが、そんな事実を知ってしまえば、昂る想いを止めることはできなかった。しかも、その相手が自分であるなら、尚更だ。
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