空を見つめる筋肉と魔獣
砂利が跳ね、乾いた枝がばきりと折れる。
温い獣の息が風となって彼女の頬を撫でた。
威圧するかのように首を低く構え、全長約二メートル級のビックホーンが姿を現した。
四足歩行の中型魔獣で、全身は黒い毛に覆われ、頭の左右には二本の鋭い角が上向きに生えている。
普段は温厚だが一度、逆鱗に触れてしまえば気が狂ったように何度も突進を仕掛けてくる。
何よりも厄介なのが、それが起こるかどうかは彼らの“気分次第”ということだった。
漆黒の毛がざわざわと揺れ、歯と歯が擦れ合いガチガチとした音が鳴る。口元からは涎が垂れ、かなり興奮しているのが見て取れた。
憤怒に染まったビックホーンは前足で数度、地面を蹴り、駆けだした。
リリィの瞳に闘志の炎がゆらりと燃え上がる——距離がゼロになった瞬間。
「フンッ!」
それぞれの角を手で掴み、力の限りを込めながら横倒しに地面めがけて投げつけた。
だが、ビックホーンも簡単には諦めない。
すぐさま立ち上がり、リリィと距離を取り——彼女の纏う真紅のドレスに誘われるように、ふたたび突進を繰り出した。
彼女たちの周りで風が唸り、砂埃が舞う。
稀に他の魔獣たちが近くを通ったが、あまりの気迫に踵を返して逃げていく姿が、視界の端にうつる。
「まだまだぁっ!!」
いくら投げても何度も立ち上がるビックホーンを前に、リリィも負けじと応戦を続けていった。
やがて——とうとう決着の時が訪れる。
息も絶えだえで地面に倒れていたビックホーンとリリィは、日が暮れて薄暗くなり始めた空を見つめていた。
のそりと立ち上がったビックホーンは「邪魔してすまなかった」と、いいたげな表情で方向転換し、よろよろとした足取りで森の奥へ去っていく。
そんな様子を横目で見ていたリリィも静かに立ち上がる。ビックホーンとの闘いのおかげで魔力は枯渇寸前まで発散されていた。
軽くドレスについた土を手で払い、怪我がないか全身をくまなく確認する。
「夜になる前に、移動を始めましょう」
あとで回収しやすいように、大樹の根元に破損した斧を集めておく。
そして、積み上がった薪の山から数本ほど小脇に抱えた。
また次回
毎日が筋曜日!




