魔力の乱れ
行事が締めくくられたあと——市民たちの帰る背を見つめていたリリィは、ふと空を見上げた。
始まりから終わりまで、さほど時間はかかっていなかったはずだ。だが、さっきまでの晴天はいつの間にか、薄く霞んでいる。
「……変ですわね。天気の移り変わりが早いような……」
空を見つめながら訝しんでいると、隣まで来ていたカイゼルに声をかけられた。
「リリィ」
「はい、なんでしょうか?」
「その……気づいていたか?指導中に、君の周りで不自然な現象が起きていたのを」
彼の言葉に、驚いたように目を丸くし、戸惑いを口にした。
「不自然な現象……ですか?いいえ、全く気づきませんでしたわ」
やはりかと、カイゼルは軽く俯いた。
いつものリリィであれば、身の回りの変化に迅速に反応し、指導の手を止めていたはずだ。しかし、彼女にそんな素振りは欠片もなかった。
「リリィに聞きたいことがある。魔力暴走の経験は?」
「……いいえ、今まで一度もありませんわ」
「そうか……」
疑念が確信へと変わっていく。
魔力暴走の予兆は本人の体調に顕著に現れる。
普通の魔力量であれば意識障害、めまい、手足の痺れなどが起きるが——リリィの場合、周囲の環境にも影響が出ているようだった。
魔力が多量であればあるほど、暴走時に止めるのが厄介になる。
(原因さえわかれば、対処の方法はいくらでもある。だが、なぜ今なんだ?)
基本的に、魔力暴走は子供の時によくみられる現象だ。多感な時期による精神の揺れによって、引き起こされることが多い。
「魔力暴走の予兆……ということでしょうか?」
「ああ、そのようだ。何か、きっかけがあるはずだ……それを取り除けさえすれば、自然と収まっていくだろう」
そうは言ったものの、胸の奥で不安が積もっていくばかり。
もし、本当に暴走が始まってしまったら。
膨大な魔力を持つ彼女を、救う手立てはあるのか。
様々な疑問が浮かんでは、胸が張り裂けそうな思いに駆られる。
カイゼルは短く何度か呼吸を繰り返し、平静を保とうとした。
(いや……落ち込むには早いだろう。俺にも、出来ることがあるはずだ)
そう結論づけ、彼は再び顔を上げ、リリィを真っ直ぐに見つめた。
「一緒に原因を探していこう」
「はい」
リリィは微笑んだ——しかしその指先は白くなるほど強く握られている。
カイゼルは気づかない。彼女の肩越しに揺らめく、見えない魔力の震えに。
心の底に沈んだ予兆は、まだ静かに蠢き続けていた。
また次回
毎日が筋曜日!




