人心掌握に長けた令嬢
唖然としているカイゼルに、たたみかけるように彼らは語りだす。
「完璧です。どこも悪いところがないのです……」
「私もこれ以上、どうすればよいのか分かりかねます」
「できる方にお教えするのがこんなに……こんなにも、虚しいことですとは知りませんでしたわ」
「いや、しかしだな……」
「失礼いたします。それは、違いますわ」
突如——ノック音と涼やかな声が室内に響いた。
教師たちは慌ててドアへ顔を向けた。
「申し訳ありません。扉が少し開いていたようでしたので……」
彼らがびくりと肩を揺らしている中、リリィは穏やかな声音で言葉の先を紡いでいく。
「皆さんのご指導が丁寧で、分かりやすかったからこそ、わたくしも安心して取り組めました。心より感謝しておりますわ」
教師たちは驚きに目を丸くしたあと、それぞれに顔を見合わせる。しばしの沈黙ののち、全員が手のひらを返したようにリリィの元へ歩み寄っていく。
「なっ、なんて素晴らしい方なのでしょう!」
「私が間違っていました。これからも誠心誠意、勤めさせていただきます」
「こちらこそ引き続き、皆さまにご教授いただけますとありがたく存じますわ」
彼らはリリィを囲み、これからについての話し合いを始めている。教師たちの表情には笑みが戻り、やがて和やかな雰囲気が出来上がっていく。
気づけばカイゼルは蚊帳の外。
「これだからリリィは……」
無意識に諦めに似たため息が口をついて出る。
あっという間に人の心を掴んでしまうリリィを前に、カイゼルは誇らしさと——彼女に惹かれてしまう”周囲”へのささやかな嫉妬を覚えた。
彼らとひと通り話を終えたリリィが、優雅に振り返った。
「カイゼル殿下、先ほどの講義で気になる点がございました。もし、差し支えなければ王宮の書庫をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。……よければ、俺もご一緒しても?」
優しく微笑むカイゼルの面持ちに、胸がぎゅっと鷲掴みされたような感覚が走る。
「……ええ」
「では、向かおうか」
少しの照れが混じった返事に、カイゼルの口元がさらに緩む。
二人は教師たちに軽く会釈をしてから部屋をあとにしていく。
残された彼らはお互いに顔を見合わせて、頷いた。
「カイゼル殿下とリリィ様……」
「ええ、ええ。おっしゃりたいことは分かりますわ」
「とっても……」
「お似合いですね」
二人の初々しさに、彼らの表情に自然と笑みが溢れていった。
また次回
毎日が筋曜日!




