二人の未来を見据えて
瞬く間に、王宮へと赴く日が訪れた。
フェザースノウ邸の門前には王宮からの豪奢な馬車が停まり、それに続くように数名の騎士が護衛としてついていた。その中にはギルベルトの姿もあった。
「本日は、よろしくお願いいたします」
リリィはその場にいた王宮からの使者——全員と丁寧に挨拶を交わしてから馬車に乗り込んだ。
従者の合図で、車体がゆっくりと動き出す。
窓から見える景色を眺めていると、思っていることが自然と口をついて出てしまう。
「王宮の馬車は……やはり、目立ちますわね」
舗装された道を進むたび、街の人々は豪奢な馬車に驚き、誰もが目を丸くした。
もし、王太子妃として正式に認められてしまえば、歩いて街へ向かうことも少なくなるだろう。
護衛をつければ許されるだろうか——そんな考えが浮かんでは消えていく。
融通は利かせてもらえるかもしれないが、必然的に制限も多くなる。リリィは窓から視線を外し、自分の両手をじっと見つめた。
口元から落胆の滲んだため息が、ごくわずかに漏れ出る。
それは彼女でさえも気づけないほどの小さなものだった。
王城に到着すると、宮廷仕えの者たちによる丁重な出迎えが待っていた。彼らに続き、城内へと入っていく。
リリィが案内されたのは褒章の儀が行われた応接室だった。
扉の前で、胸に手を当て、大きく深呼吸をする。
(わたくしには、前に進む力がありますわ。それはきっと、どんな時でも背中を押してくれるはず)
自分を鼓舞する言葉を、心の中で唱えてからノックをした。
「どうぞ」
中から聞こえた声に「失礼致します」と返すと、そばに控えていた侍従が扉を開放してくれた。
彼らに軽く会釈してから、足を踏み入れる。
室内には、すでにカイゼルとセラフィナがソファに着席していた。そして、最上座には——国王であるベラミスの姿。病に侵されてはいるが、彼の威風が陰る気配はどこにも見受けられなかった。
王族が三人も揃っている。その事実だけで、リリィの緊張は一段と重くなる。
リリィはすかさずその場で、上品にカーテシーを行った。
「お座りになって」
「はい」
セラフィナの優しい声に促され、彼女たちの向かいのソファへと腰を下ろした。
真っ先に口火を切ったのはセラフィナだった。
「本日は、お二人の気持ちを確かめるための場です。どうか堅苦しく考えず、率直にお話しください」
リリィとカイゼルが静かに頷いたのを確認し、彼女は続ける。
「では……まずはカイゼル。あなたは、リリィとの婚約を本心から望んでいますのね?」
「はい。リリィと歩む未来を、誰よりも強く望んでいます」
面と向かって想いのこもった言葉を伝えられると、胸の奥が熱を帯びた。
注意深く表情を隠そうとするが、自然と目元が和らいでいってしまう。
そんなリリィの反応に、セラフィナは柔らかく微笑んでから問いかけた。
「それでは、リリィ。あなたのお心を、聞かせていただけますか?」
「はい。……わたくしはカイゼル殿下を尊敬しております。お傍に立つ責務を果たせるのなら婚約のお話、お受けしたく思います」
リリィも彼への気持ちをまっすぐに返す——二人の視線が自然と交差し、笑みが溢れた。
室内にはどこか柔らかな幸福感が満ちていた。
また次回
毎日が筋曜日!




