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噂の筋肉令嬢

昼下がりの城下町を、暖かな春陽が包みこむ。

活気に満ちた街並みの中、ノエルは両手に買い出しの荷を持ち、マチルダの後ろをついて歩いていた。


彼女たちが進む通りには、古くから続く商舗が軒を連ねている。

視線の先には酒場があり、真昼間にもかかわらず外の即席卓には杯を交わす男たちの姿があった。


「おい、聞いてくれよ!リリィ嬢の婚約者募集の件なんだけどよ」

「ああ、例のあれか?お前も参加したという……」

「そうなんだよ!で、あのリリィ嬢を負かしたのは一体誰だと思う?」


短髪の男がにやりと笑みを浮かべながら、目の前の男に問いかけた。


「は?そんなの分かるわけねぇだろ。お前じゃないのは確かだがな!」

「それがな、聞いて驚くな?なんと、カイゼル殿下が負かしたんだぜ!」

「……は?なんだそれっ、詳しく教えろ!」


事実談に花を咲かせている彼らの横を、マチルダたちはちらりと一瞥しながら通り過ぎていく。


会話を聞きたくもないのに、自然とノエルの耳が”リリィ”という単語を拾い上げてしまう。


進路方向の先——パン屋の軒下では、二人の婦人が井戸端会議を繰り広げていた。


「ねぇ奥さん、聞きました?」

「カイゼル殿下のことでしょう?確か、ご令嬢の婚約者募集に参加したらしいじゃない?」

「そうなのよ!」


そこかしこから聞こえてくる世間話に対し、ノエルは特大のため息を吐いた。

こういう時に限って、聞こえてくる会話を遮断する術を持ち得ていないことを心底、後悔する。


生憎、両手は荷でいっぱいだ。耳を塞ぐことすらできやしない。情報収集は得意だが、今は望んでいない。


「あーあ、リリィ様は私たちだけの存在だったのになぁ……」


そんな言葉を後ろ手に聞きながら、マチルダが静かに彼女を嗜める。


「ノエル、リリィお嬢様が決めたことに不満を言うもんじゃありませんよ」

「はぁーい」


一応、返答はするがそう簡単に気分が晴れることはない。

気持ちも、手に持っている荷も心なしか重くなった気がする。


(まぁ、リリィ様が惚れた相手なら応援するしかないかぁ)


モヤモヤとした気持ちを無理やり押しくるめながら、マチルダに遅れを取らぬよう足早に彼女の背中を追いかけた。




用事を終えて屋敷に戻ると、鍛錬場には日課であるランニングをしているリリィの姿があった。


「リリィ様ぁー!!お疲れ様ですー!」


ノエルの大声が空気を揺らした。リリィはゆっくりと立ち止まり、優雅に振り振り返る。

軽めの運動程度では彼女の息が乱れることはない。


「ノエル。買い出し、ご苦労様です」

「ランニング中に、すみません。王宮からの使者がお見えになっています」

「……わかりましたわ」


その一言だけで全てを察したリリィの表情が、一瞬にして真剣なものへと変わる。


「ノエル、応接室に向かいましょう」

「はーい……」


渋々といったような返事が返ってくる。だが、リリィは構うことなくノエルを引き連れ、移動を始めた。

リリィの物語が、また再スタートを迎えました

よろしくお願いします!

毎日が筋曜日!

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