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1.その剣は国のために

初投稿作品です。

お手柔らかに……

毎日 20時更新です

毎日が、筋曜日!


王宮の一角にある会議室は異様な静けさに包まれていた。


ある者は無言で椅子に沈み、またある者は色を失い、深く目を伏せている。


敵国の軍勢はついに国境を越え、最後の砦に迫っている。ヴェルティエ国の未来は危殆に瀕していた。


「何故、こんなことに……」


重鎮である一人の騎士が悔しさが滲んだ声をこぼした。


その時——会議室のドアが蹴破られたかのように激しい音を立てて開いた。

転がり込むように闖入したのは、肩で息をしている若き騎士。彼の軍服は煤と赤黒い血でベットリと濡れている。


全員の視線が彼へと向けられた。


彼が声を震わせながら最悪の一報を告げ始める。


「……ごっ、……ご報告に参りました!!——っ、西門が……破られました!!」


ざわりと室内が騒がしくなる。


「……西門が……だと!?」

「あぁ……なんてことだ……とうとう……」

「……嘘だろ?」


堅牢と謳われた防壁が、陥落寸前だという。

前線の砦は今や、国中に緊張と不安を呼び起こす象徴となっていた。


誰もが悟っていた。ここが落ちればこの国の心臓部が敵の刃に晒されるということを。


「もはや、策は尽きたか……」


誰かが絞り出したその声が会議室に響いた。

重苦しい空気が室内を覆い尽くし、希望という言葉さえ遠く霞んだ——その時。


椅子を引き、立ち上がる者がいた。


「まだ、終わってなどいない!」


鋭いその一声はまるで重石を打ち砕くかのように空気を揺らした。

会議室の奥。重々しい帳が垂れる窓辺に、ひときわ凛とした姿があった。


そこに佇んでいたのは第一王子——カイゼル・ヴェルティエ。彼の瞳だけは、まだ確かに燃えていた。


皆の視線が一斉に彼へと集まる。


「俺も戦います。この命を、この剣を——国のために!」


会議室に静かな衝撃が走る。

それはただの決意表明ではなかった。


国王ベラミスはここ数年、持病の悪化により床に臥している。

体調の良い日には顔を見せるものの、それも式典や王族の集いに限られ政務の多くは長男であるカイゼルに一任されるようになっていた。


ベラミスは床に臥してもなお、政治への関心を失っておらず重臣たちへの助言や方針の確認は欠かさない。

しかし実務の最前線を担うのは、いまや若き王子——カイゼルであった。

外交、軍事、内政の全てに精通し、その若さながら重臣たちからも一目置かれる存在として、「影の王子」「王国の盾」といった異名で語られるようになっていた。


王国の未来はすでにカイゼルの双肩に懸かっていると言っても過言ではない。

そんな、この国の未来を背負う者が前線に立つという選択を口にしたのだ。


「しかし、カイゼル殿下!……殿下の身に何かあれば、この国の未来は!」

「覚悟の上だ。俺が倒れたなら、王位継承権は弟のシリルに移る。これは父とも話し合った上での決断だ」


若さの熱ではない。静かな覚悟を湛えたその瞳に老臣の一人が言葉を失う。


「守られるだけの王では、この国を背負うことはできない」

「——ですが!」

「ならば、今ここで国のために剣を取らず、いつ取るというのか!それでも俺は、王家の血を引く者か!」


一瞬の沈黙が広がった。


老臣たちの間に緊張が走り、やがて——。


「……カイゼル殿下」


一人が声を漏らし、立ち上がる。

続いて別の者が椅子を引き、カイゼルに向かい膝を折った。


「カイゼル殿下、我らも共に参りましょう!」


それは次々と連鎖し、会議室にいた誰もが彼の覚悟に応えるように立ち上がっていく。

カイゼルは彼らを見回し、深く頷いた。


「ありがとう。……共に、国を守ろう!」

「はっ!!」


剣を取ることに迷いはない。

だが、それが誰かの命を背負う覚悟の元に成り立っているということをカイゼルは忘れてはいなかった。


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