鏡の前で
一人の世界が暗い。
何も見えない。
「君は大丈夫だよ」
声がした。
受け入れる。
「そうそう。彼女の言う通りだ」
声が続く。
ほっとする。
「私も二人と同じ意見だな。悩んでいても仕方ない」
声が重なる。
息をつく。
「まったくだ。どれだけ悩んだって変わらないんだ。ならば前を向くべきだ」
望みが声となる。
息を飲む。
「本当は分かっているんだろう? お前は」
心を突かれる。
息が止まる。
「何でこのようなことをするんじゃ? あんたはこんな行動が無意味だと分かっているはずじゃろう?」
真実を突きつけられる。
逃げ場を失った息が漏れる。
「遂に滑稽なキャラクターまで出したか。 ~じゃ。なんていう爺さんはみたことあるのかい?」
現実が大きな音を立てる。
「幾人も真似て何になる? 何の意味もないだろう?」
声を認識する。
自分の声を。
「目をあけて」
開けた世界に色が宿る。
歪んだ顔が映る。
私の顔が。
「馬鹿みたい」
私は呟く。
独りきりで。
落ちていく息が私に縋る。
誰もいない。
私以外は。
どれだけ偽ろうと私は自分を騙しきれない。
「行かないと」
私は自分自身に声を放ち。
現実へと戻る。
時計は遅刻を告げていた。