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第一章 1-2:科学者の戸惑いとアノマリーとの邂逅

「ったく、あんた、本当に重いわね!」


リィンは息を切らしながら、半ば凱斗を引っ張るようにして森の中を進んでいた。瓦礫の山から少し離れると、周囲は鬱蒼とした木々に囲まれている。地球のそれとは異なる、背の高い奇妙な植物が、不気味な影を落としていた。


凱斗は、体中に走る激痛に耐えながらも、彼女の腕の筋力や、その歩行サイクル、呼吸数、そして体内から放出されるエネルギーの制御効率を冷静に観察し続けていた。


(この身体能力で、あの魔物と渡り合った……。非効率な動きが散見されるが、それを補って余りある高エネルギーの出力。地球の物理法則では説明がつかない。だが、彼女はそれを『当たり前』として認識している。まさに、この世界の『バグ』が生み出した特異点か)


彼の頭脳は、痛みすらも新たな解析対象として取り込み、目の前の現象をひたすら情報として処理していた。


「ねえ、あんた、名前は?まさか、ないわけじゃないでしょ?」


リィンが、ふと思い出したように尋ねた。


冴木さえき 凱斗かいと。地球における私の専門は多次元物理学と根源的エネルギーの研究者だ」


「ちきゅう?たじげんぶつりがく?……何それ、美味しいの?」


リィンは、凱斗の返答に目を丸くした。冗談めかした口調だが、その表情は真剣に理解しようとしている。


「……私の言葉が通じないのか。いや、単語認識はできている。だが、その概念を理解できない、ということか」


凱斗は淡々と分析し、わずかに眉を寄せた。彼の常識が、この世界では全く通用しないことを突きつけられている。これは、想定外の『バグ』だ。


「わけわかんないこと言ってるのはあんたの方よ!ま、とりあえずカイトね!よろしく!」


リィンは、凱斗の言葉を深く追求せず、彼の名前を勝手に短縮して呼んだ。そのあっけらかんとした態度に、凱斗の内部システムで『感情の認識エラー』が発生する。


(理解不能な対応。この個体の思考プロセスは、非合理的かつ非効率的だが、生存戦略としては有効な場合がある……と、地球の心理学データが示している)


二人は森を抜け、開けた場所に出た。そこには、岩肌に沿うようにして建てられた、どこか古びた巨大な建造物が姿を現した。周囲には、奇妙な形をした移動手段が何台か置かれ、数人の人物が活動しているのが見える。


「着いたわよ、ここがアノマリーの拠点。きっとみんな、あんたのこと調べたがるわよ」


リィンが、いたずらっぽく笑った。その顔は、先ほどの戦闘で見せた鋭さとは打って変わって、年相応の少女の表情だった。凱斗の視界に、彼を取り巻く新しい『バグ』の群れが映し出された。


(解析対象、多数。この集団は、この世界の法則性を解明する上で、極めて重要な情報源となる可能性が高い。……だが、会話による情報収集は困難を極めるか)


凱斗は、自身を待ち受ける新たな研究課題に、静かな興奮を覚えていた。

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