6 花嫁選び
「花嫁候補のおなりです」
大広間に声が響き渡り、繊細なレリーフの施された重厚な扉が開く。シャロンはあの日と同じ薄紫色のドレス。リエッタも記憶と同じ薄桃色のドレスを着て、大広間に足を進めた。
大広間の最奥は一段高くなっていて、天主が豪奢な椅子に座っている。
シャロンの胸が少し痛んだ。天主は変わらずとても優しそうな眼差しを彼女に向けてくる。鮮やかな金の髪が、そよと揺らいだ。
赤い絨毯の両脇には、重臣たちが並んでいる。一番奥にいるのは、シャロンたちと同じ白銀の髪で、天主の幼馴染でもあるレヴィアだ。彼が序列の中では、天主に次いで実力も抜きん出ている。
レヴィアは白銀の髪を一つに束ねて、目に落ちてくる髪をうるさそうに払った。レアルの民は概して美しい容貌をしているけれど、彼もまた、切れ長の涼し気な目元に色気があり、端正で美しかった。
「では、天主様の花嫁と異郷に嫁ぐ花嫁の決を取りますね」
「待ってください」
シャロンは胸に手をやりレヴィアの言葉をさえぎった。
「おや、シャロン嬢。どうしましたか?」
面白そうだと言うように声を上げるレヴィアを見て、そしてシャロンは天主を見る。ずっと憧れていた。ずっと側にいたいと思った。妃になりたかった。それでも、今はーー。
「私が異郷に嫁ぎます」
出来レースであるのなら、もう一度彼と会えるのなら、自分の意志で決めたかった。ざわ、と辺りの空気が揺れる。ひそひそと囁き声が聞こえた。
「私がアルーアの王子の花嫁になります」
「シャロン、あなた……」
信じられないものを見る目でリエッタが見てくる。シャロンはじっと彼女を見つめた。知っているのよ、というように。
リエッタは気まずそうに視線を逸らす。シャロンは真っ直ぐ前を向き完璧なカーテシーを取り、天主に頭を下げた。
「天さま……どうぞ、お元気で。御代、恙無きよう、異郷の地からお祈り申し上げております」
「シャロン……」
天主が椅子から腰を浮かしている。頭を下げているシャロンからは彼がどういう表情をしているのかわからない。顔を見ることはできなかった。
「……では、リエッタ嬢が天主様の花嫁。シャロン嬢がアルーアの花嫁ということでよろしいですか?」
「はい」
レヴィアの言葉に、シャロンはしっかりと頷く。
ぱらぱらと拍手が上がり、やがてそれは万雷の拍手となり大広間に鳴り響いた。
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