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59 断罪

 1週間、軟禁状態になっている王の我慢は限界に達していた。外へ出ようとしても、アルファルドとアルクトゥールスの兵たちががっしりと警護をしていて、外に出ることもできない。食事と着替えは出てくるが、酒も飲めず女も抱けない。不自由なこと、この上なかった。

「ええい! どかぬか! 儂が王だぞ! 王の命令を聞け……!」

 そう怒鳴りつけても、兵たちは微動だにしない。彼らは武器を携帯していたから、怒鳴る以上の事はできない。

 ぎりぎりと歯ぎしりをしていると、扉が開いて、アルファルドとアルクトゥールスが入ってくる。兵たちが恭しく頭を下げ、道を開けた。

 瞬間、王の脳裏に1週間前の出来事が鮮やかに甦り、そして屈辱的なこの生活への不満が噴出した。

「アルファルド! アルクトゥールス! 貴様らどういうつもりだ!? 父であり、王たる儂にこんな真似をしおって……! 許さんぞ!」

「もとより、許してもらうつもりはない」

 アルクトゥールスが、王を見下ろすように言う。アルファルドが静かに書面を持って王の元へと歩み寄った。

「父上。ここに署名を。そして、御璽を渡してください」

「なんだと……?」

「父上はご病状が重く、退位することを決意なさいました。ここに、署名を。そして御璽を私に。私が王になるのです」

「王に……? おまえが……?」

 呆気にとられたあと、王は笑った。

「王は儂だ! おまえなどに務まるものか!」

「親父に務まるなら、兄上にはじゅうぶん務まるだろうよ」

 ふたりの息子は本気なのだと感じて、王は一歩後ずさる。息子たちの周りには兵たちが守るように周りを固めていた。

「軍部の掌握は済みました。もうだれも、父上に従うものはおりません。さ、署名と御璽を」

「なにを……言っておる……。おまえなどが王になったら、たちまちレアルに攻め込まれるぞ……!」

 そう言うと、ご心配なく、とまだ変声期前の高い声がする。

「我がレアルはそんなことはしません。僕はここで、アルファルド様とあなたを良く見てきました。報告はすべてレアルにしてあります。アルファルド様が王位に相応しいと、レアルも考えております。アルファルド様が王になることを条件に、資金の援助をレアルからはさせていただきます」

 見ればレアルからきたという小僧が、冷めた目でこちらを見ながら言う。

「それにシャロン様には、お心安くお過ごしいただきたいとの天主さまのお考えです。それには、あなたは、害悪なのです。僕が何も知らないと、僕を通してレアルが何も知らないとお思いですか?」

「貴様……密告しておったのか!」

「報告です。僕はシャロン様の従者です。僕にはレアルに報告する義務があるのです」

「あなたが私にしたことは、両国の条約を破っています」

 シャロンが一歩進み出て言う。

「レアルとアルーア間で私がアルクトゥールス様の花嫁として嫁ぐ条約を結んでいます。それを破ろうとして未遂とは言え私を襲ったあなたは、事の重大さをわかってはいません。王の器ではありません」

 王は真っ赤になってシヴァとシャロンを睨見つけ、ふたりの息子に向き直る。

「見ろ! レアルに、乗っ取られるぞ! それでも良いのか!! それにアルファルド、お前にならわかるだろう? アルクはお前を裏切るぞ! お前を裏切って自分が王になるつもりなのだ!」

「ばかばかしい。俺は王になりたいなんて思ったことは1度もない」

 アルクトゥールスが一刀のもとに切り捨てる。

「そ、それに、その女だ! 清純そうにして儂を誘惑しおった……! そしてアルーアを引っ掻き回して、おまえたちを誑かせて、国を乗っ取る気でおるのだ……その売女は……!」

 その言葉に、確実に部屋の温度が下がった気がした。アルクトゥールスとシヴァが、シャロンを背に庇いこれ以上はないというほどの、冷たい目を王に向ける。

「脳にまで病が回ったと見える」

「ええ、本当に。一国の王がこれではレアルとしても困ります」

 アルファルドが一歩進み出て書面を高く掲げた。

「父上、これはレアルと交わした正式な文書です。レアルにしていただく後ろ盾……資金援助は、民のために使うことも条件に入っております。私が王になり、レアルと正式な外交ルートを開くことも決定しております」

「これ以上、見苦しい真似はやめて、最後に署名、そして御璽を渡せ」

「嫌だ!!!」

 王は叫び声を上げた。

「王は儂だ! 退位などするものか! おまえたち、誰か! こいつらを捕らえろ……!」

 そう怒鳴っても誰も動こうとはしない。それどころか、武器がこちらへ向かって構えられる。

 なんとか、なんとか逃れるすべはないかと辺りを見回すが、兵士たちに取り囲まれて逃げる場所もない。

「嫌だ! 儂は署名もせぬ、御璽も渡さぬ」

「おとなしく渡して欲しかったのですが……残念です」

 アルファルドがそう言って合図をすると、兵士たちが王の身柄を拘束した。アルクトゥールスが前に立ち、身動きのできない王の懐から御璽を取りだす。それをしげしけと見やってから、兄に渡した。

「そのまま押さえておいてくれ」

 アルクトゥールスはそういうと、文机を持ってこさせ、書面を兄から受け取る。兵士たちに羽交い締めにされた王を文机の前に座らせた。その手に羽ペンを持たせると無理やりに手を取り署名をさせる。

「兄上、署名はもらった。あとは御璽で捺印するだけだ」

「確かに」

 アルファルドは目を通すと、御璽を押した。そして父王へと目を向ける。

「王は心神耗弱。ご病気だ。地下牢にお連れしろ」

「アルファルド……! 貴様……! 許さんからな……! 許さんぞ……!! アルクトゥールス、おまえもだ……!」

「それはこちらの台詞だ」

 アルクトゥールスがシャロンを背に庇ったまま、短く吐き捨てる。 

 嵐のように王が連行されて行く。やがて部屋には静寂が戻った。

 アルクトゥールスはアルファルドに臣従の礼を取り、兄を仰ぎ見た。兵士たちが次々とそれに倣って膝を折った。

「即位、お祝い申し上げます。兄上に、永久の忠誠を」

 アルクトゥールスのその言葉に、周りの兵士たちからオオオ……と地鳴りのような歓声が上がった。

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