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58 シャロンの決意

 夜が明けて、3人が沈痛な面持ちで宮に入ってくるのを、シャロンは何事かと見守った。

 アルクトゥールスがすぐに人払いをして、宮にはアルファルドとアルクトゥールス、そしてシヴァだけが残った。アルファルドがシャロンに向かって頭を下げる。

「この度は本当に、申し訳ありませんでした……頬は大丈夫ですか?」

 一夜明け、赤くはなっているものの、もう痛みはない。そう告げると、アルファルドはほっとしたように息をついた。

「どうしたの?」

 アルクトゥールスとシヴァに何事か、というように顔を見ると、ふたりはなにか気まずそうにしている。やがて意を決したようにアルクトゥールスが話し出した。

「親父を退位させようと思っている」

「え……?」

「親父はあれでも、若い頃はやり手でな。小競り合いが多かったアルーアをまとめ上げた実績がある。だから古老からの信頼はまだ厚いんだ。王位を簒奪すれば家臣からの求心力が弱まる。今まではそう思ってなんとか兄上と2人で尻拭いをしてきた。だが、レアルとの条約を締結させたのは実質のところ兄上だ。シヴァを通してレアルの後ろ盾を貰うことができた今、レアルとの友好関係にひびを入れるような親父には、もう任せておけない」

 アルクトゥールスは、そこで苦々しそうにつぶやいた。

「レアルから友好のために嫁いでくれたおまえに、あんな無体なことをして……本当にすまない」

「アルクのせいじゃないわ。顔を上げて」

 シャロンがそう言ってもアルクトゥールスは顔をあげようとはしなかった。そのまま苦しげに言葉を続ける。

「おまえを本当は親父には会わせたくはない。けれどーー次の王になるのは兄上だ。どうか親父の断罪を手伝ってはくれないだろうか……」

 次いでシヴァが重い口を開く。

「レアルがアルーアと国交を結んだのは、香辛料や鼈甲細工、銀等を貿易面で欲しいという理由がありました。締結にいらしたアルファルド様を見て次の王がこの方なら……と決断のひとつになったのも事実です。僕はレヴィア様に付いてその場にもいましたから。……僕は本当は反対です……だけど、この場にはシャロン様がいらしてくださったほうが説得力が増すのも事実で……」

 言いにくそうに口ごもってしまったふたりを見てシャロンは察する。

「私が襲われたことを言えば良いの……?」

 その言葉に男たちは押し黙った。シャロンとアルクトゥールスの婚姻は、レアルとの条約に組み込まれている。それを曲げようとした王は許されることではない。

 それでも、アルクトゥールスもシヴァも、王とシャロンをもう会わせたくないと言う気持ちが強くて躊躇っているのだ。

 続けてアルファルドが深く深く頭を下げる。

「シャロン殿は2度と父王に会いたくないと思っていることは重々承知していますが、レアルにも伝わる話です。どうか証人として立ち会っていただきたい」

 シャロンは視線を落とす。

 アルファルドが王になる。それは歓迎すべきことだ。アルクトゥールスが憂慮していたアルーアの問題にもきっと改革がなされるだろう。

 街であったスリの子どもの笑顔を思い出す。あの子たちにとってもそれは良い結果をもたらすだろう。

 正直に言えば、まだ怖気は走っていて思い出しては体に震えが走る。2度と舅には会いたくないと思っていた。恐ろしかったし、悔しかった。何度繰り返してもそう思う。

 それでも、とシャロンはアルクトゥールスを見る。それでも、あなたの役に立つのならばーー。

「わかりました。一緒に証人に立ちます」

 シャロンの言葉に、3人がはっとして顔を上げた。シャロンは笑う。

「そんなに心配しないで。私は大丈夫」

 そんなはずはない、と誰もがわかっていた。黙ってしまった3人に、シャロンは話しかける。

「それで決行はいつですか?」

 もうひとつの密談が、ひっそりと行われた。

 

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