52 思わぬ贈り物3
針子たちは取り急ぎ数着を2 週間で仕立ててきた。さすがプロなのだろう。あまりの早さにシャロンは、驚いて声も出ない。
「全部は試着できないわ……」
そう言うと、アルクトゥールスはシャロンの好きだと言う青系統のブラウスとスカート、そして菫色の1枚布を選んだ。
「おまえが好きだと言ってた布地で作った衣装だ。着てみないか?」
「うん……」
なんだか気恥ずかしさもあったが、シャロンは素直に受け取って隣室に着替えに入った。数人の針子たちが付き従ってきて、着替えを手伝いつつ不備はないか確かめようとする。
薄い青系統のブラウスに同色のスカートを履き、銀糸の刺繍の入った帯を締める。繊細な刺繍の入った1枚布と、袖と襟元に花模様の刺繍の入った上着を着る。新しい銀細工のブローチは花模様で、こんなものまで誂えてくれたのかとシャロンは驚いた。
アルーアの衣装は、レアルと違いコルセットをしなくて良くて全体的に楽だ。レアルのように体型が露わになることはなく、すとんと落ちる。
「どうかな……?」
はにかみながらアルクトゥールスの元へと戻ると、彼は不躾にならない程度に、シャロンの姿を眺めた。そして笑う。
「良いんじゃないか……とても、似合っている」
「ありがとう……」
「せっかくだから、散歩にでも行かないか?」
「うん。行きたい」
アルクトゥールスが手を差し出す。シャロンは、そっとその手を握った。
「受け取ってくれてありがとうな」
「ううん。こちらこそ、ありがとう」
手を繋いで宮の外に出る。気持ちの良い朝の風がさあっと吹いて、ふたりの髪をそよがせた。
仕立てて貰った衣服は肌触りがとても良かった。大切に着ようとシャロンは思う。
隣に並ぶアルクトゥールスを見上げる。視線に気づいて、アルクトゥールスがなんだ? というような表情になる。
なんでもないと笑って、シャロンはそっと手を握りしめた。寄り添うと肩を抱き寄せられる。
そのまま言葉はなく、しばらくふたりで寄り添い佇んでいた。
幸せに目が眩みそうになる。シャロンは、その幸せに翳りが来るとは夢にも思わなかったのだ。




