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51 思わぬ贈り物2

「衣装を仕立てないか」

 次の日の事だった。アルクトゥールスが朝餉を食べ終わると同時に言う。食後のお茶を飲んでいたシャロンは、びっくりしてアルクトゥールスを見つめた。

 衣装なら、レアルで10着ほど仕立てたのを持ってきてある、そう言うとアルクトゥールスは、少し気まずそうに口元を覆った。

「いや……そうだけれど、この国の布とこの国の針子で作ったものを贈りたいんだ……」

「アルク……?」

 もしかして昨日の話を気にしてるのかと思ったが、彼はこちらに向き直り真面目な顔をしている。断れそうな雰囲気でもなかったし、もし妬いてくれているのならばそれはそれで嬉しい。

「うん……。じゃあ、お願いしようかな」

 そう言うと、アルクトゥールスが嬉しそうに頷く。

「じゃあ、早速作ろう」

「え? 今から?」 

「善は急げと言うだろう?」 

 アルクトゥールスに急き立てられるようにして、隣室にうつる。

「入ってくれ」

 アルクトゥールスが声を掛けると、ぞろぞろと布地を持った針子たちが入ってきて、シャロンは、驚いた。

「アルク。一着仕上げるだけよね?」

「いや、普段遣いはそれなりにいるだろう? 正装も作らないといけないだろうし……季節のものも必要だろう」

 呆気に取られている間に採寸される。見本の布を見ながら、アルクトゥールスがシャロンに話をする。

「好きな色はあるか? おまえには優しい色合いの方が似合うと思うんだが」

「淡い青系統なら好きだけど……」

「青系統の布地のサンプルを見せてくれ。……ああ、この色なら、やわらかな淡い青色でおまえに似合いそうだと思うがどうだろう? 1枚布は……瞳の色に合わせても良いと思う。刺繍は、好みのものがあるか?」

 シャロンは、呆気にとられたまま、布地を取っ替え引っ替え充てがわれた。

「ね、ねえ……アルクのはつくらないの?」

「俺のは十分あるからな」

 控えめな拒否はすげなく却下された。

 午後も近づこうという時刻になってやっと解放される。

「じゃあ、それで服を仕立ててくれ。なるべく早く頼む」

「かしこまりました」

 針子たちが頭を下げて宮を出て行く。シャロンは、疲労で声も出ない。

「アルク……何着作らせるつもりなの?」

「普段遣いと正装と……少なくとも10着くらいは必要だろう」

「いや! そんなに必要ないわ。レアルから持ってきてるのもあるし、第一そんなお金……」

「贈りたいんだ……おまえに」

「アルク」

 シャロンは、ため息をつく。

「本来なら、こちらで最初に仕立てさせるのが普通だったからな。俺が気が回らなかった……というか。まあ、気にしないでくれ」

「だけど……」

「遅くなって申しわけないけれど、受け取って欲しい」

 真面目な顔でそう言われ、シャロンは、逡巡したあと、こくりと頷いた。きっと最初は婚姻に乗り気ではなかったから用意をするまで気が回らなかった、と言いたいのだろうと理解する。

「孤児院の子たちは大丈夫……?」

「そちらはちゃんと経費を別にしてある」

 そう言われては、そう……と頷くしかない。シャロンは、アルクトゥールスに向き合った。

「嬉しいわ。ありがとう」

「いや、作らせるのが遅くなってすまなかったな」

「ううん。そんな事ない」

 シャロンは笑った。アルクトゥールスがひとりで手配してくれたのだろうか。そう考えると嬉しさもこみ上げてくる。

「ありがとう、アルク」

「どういたしまして……」

 アルクトゥールスの耳がほんのりと赤い。それを見て、シャロンは、温かい気持ちになって微笑んだ。


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