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49 予知夢3

 シャロンが微笑んでいる。恋をしているのだと一目でわかった。相手は誰かと見やると、アルーアの第2王子だった。

 シャロンの視線から、瞳から、仕草から彼のことが好きなんだという気持ちがあふれている。これに気づかない男は相当鈍感だろう。

 ふたりは手を繋いで歩いて行く。他愛もない話をしているようで、時々、笑い声が上がった。 

 なんとも微笑ましく、そして胸が痛くなる光景だった。やがてシャロンが青年に寄り添った。青年も、シャロンの肩を抱き寄せるーー。


「どういうことだ……?」

 予知夢だと言う確信がある。だが、ふたりの間はとても親密そうに見えた。何よりシャロンの視線が、アルーアの第2王子に恋していると物語っていた。

 それならば、なぜ1度目に見た夢では、あんなにひとりぼっちで寂しそうに嗚咽をもらして泣いていたのかーー。

 とんとん、と指で机を叩く。 窓を開け放っているので、気持ちの良い風が入ってくる。レースのカーテンが風にそよそよと揺れた。

「天主様、入りますよ。報告です」

 レヴィアがノックして部屋に入ってくる。持っていた書類に目を落とした時に、白銀の髪がはらりと落ちた。

「シャロン様とアルーアの第2王子ーーアルクトゥールス様は、とても仲睦まじいとシヴァが報告してきています」

「仲睦まじい……?」

 それなら自分がいちばん最初に見た夢はなんだったのだろうか。普通の夢では断じてない。

「シャロン様はアルクトゥールス殿下をお慕いしているようですよ」

「そうか……」

 自分の中に忸怩たる思いと、良かったと思う相反する思いがあるのに気づいて、天主は鮮やかな金色の髪を振った。

 シャロンが幸せならばそれで良い。

 「レヴィア。私が最初に見た夢では、シャロンはまるで幸せそうには見えなかった。嗚咽をもらして泣いていた。とても不幸せに見えた。可哀想にと思うほどに」

「はい。予知夢としては変ですね。今は、アルーアの第2王子と幸せそうにしていると報告が上がっています」

「私が見たのは予知夢ではなかったのだろうか……」

 その言葉にレヴィアは首を振った。

「まだ、わかりません。シャロン様はアルーアの王に殺されたのでしょう? その未来を見た可能性がありますから」

「アルーアの、低能な色欲王、か」

 天主は苦々しくつぶやく。シャロンになにかあったら殺してやるとは思うが、事前に防げるのがいちばん良い。

 とんとん、と指で机を叩く。

「アルーアの第1王子は見どころがあると言っていたな」

「ああ、はい。誠実で有能な真面目な人物でしたよ。調印式でお話もしましたからね」

「ならばーーその第1王子が、王になった方が良いのではないのか?」

「……それはそうだと思いますが、内政干渉になりますよ」

 天主は引き出しから紙を取り出し、さらさらと流麗な文字を書いて蜜蝋の印を押した。

「この文書をひそかに、アルーアの第1王子に届けてくれ。それと、シヴァには伝言を」

 シャロンのためにでき得ることは全てしてやろうと誓った。それならば先手を打つべきだ。

 天主はシャロンを想う。寂しい気持ちは確かにある。それでも、遥かな異郷で彼女が幸せになることを祈らずにはいられなかった。

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