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47 シヴァのレッスン

「シャロン様、意識を集中して下さい……胸の辺りが温かくなる気がしませんか?」

「意識を……深く?」

「そうです。深く深く集中して下さい」

 シヴァと向き合うようにして、シャロンは座り集中する。

 時刻はお昼過ぎ。場所はシヴァの宮だ。人払いをしているので、部屋には2人きりだった。

 シヴァに能力の使い方を教えてもらい始めてから、一月以上が過ぎた。

 今まで習った通りに深く意識を集中すると、胸の辺りが温かく、白銀の灯火が見えた。

「わかるわ……私には力がある」

「そうです。能力を使うときにはまず、意識を深く集中させます。そうすると、胸に僕なら青銀の灯火が見えます。シャロン様なら白銀ですね。この力を使うんですけれど……その灯火がぶれず固定するようにイメージしてください」

 シヴァはすこし困ったように眉毛を下げる。

「シャロン様にどんな能力があるのかはわかりません。でも、あった方が良い能力はわかります」

「どんな……?」

「なにかあった時、アルク様や僕が駆けつけるまでご自分を守ることのできる能力です」

 シャロンは舅に襲われた回帰前を思い出す。そして身震いした。確かにその能力が欲しいと心から思う。それにその能力があれば、アルクトゥールスの役にも立つのではないか。

「シヴァ、私にも使えるかしら……」

「僕は文官ですが、武官に比べれば弱いけれど、相手を昏倒させるくらいの能力は持っています。だから、シャロン様もきっとできると思います」

 その言葉に励まされて、能力を使うイメージをするけれど、胸の辺りにゆらゆらと白銀の灯火が揺れるだけで定まらない。

「いきなりできるようにはなりません。僕たちは文官院へ十年近く通いましたから」

「私も通いたかったわ……」

 少し頭が痛みだしてシャロンはため息をつく。シヴァは苦笑した。レアルでは妃は守られる存在だ。誰もシャロンに力の使い方を教える必要があるとは思わなかったのだろう。

 そしてレアルは一夫一妻制だ。アルーアへと嫁ぐ話が出なければ、もし妃にならなくても、未だ独り身のレヴィア等の高官の花嫁になる道もあっただろう。シヴァだって、まさかシャロンに能力の使い方を教える日が来るとは、予想したこともなかった。

 異郷へ嫁いでなお、能力を使う必要性があることがシヴァには切なく思える。

「それでも覚えは早い方だと思いますよ。イメージをするまでも、僕は子どもだったのもあるかもしれませんが、苦労した記憶がありますから」

 励ますようにそう伝えると、シャロンは少し笑った。

「ありがとう、シヴァ」

「シャロン様、少し休憩しましょう。お茶とお菓子をお出ししますから」

 そう言ってレアルから持参してきたティーポットを出す。シャロンの瞳が輝いた。

「わあ……レアルのお茶を淹れてくれるの?」

「はい、たまには良いでしょう? 故郷の味も。お菓子もレアルのものです」

「とっても嬉しい!」

 シャロンはにっこりと微笑む。シヴァは紅茶を淹れてくれる。三日月型のアーモンドのクッキーも添えて出してくれた。

 紅茶は程よい深みと甘さが美味しく、アーモンドのクッキーはとても香ばしい。久しぶりに故郷の味をシャロンは懐かしく堪能した。

 けれどふと、シヴァが疲れている様子に気づいて、シャロンは心配になる。あまり眠っていないのか、目の下に隈ができている。

「シヴァ、大丈夫?」

「何がですか?」

「とても、疲れた顔をしているわ」

 そう言うと、彼は大丈夫です! と首を振って笑ってみせる。

「あまり夕べ良く眠れなかっただけです。元気なので気になさらないでください」

「そう……? リラ様とラベンダーのポプリを作ったの。ラベンダーはよく眠れる効果があるから、シヴァにあげたいのだけど、もらってくれる?」

「良いんですか? 喜んでいただきます!」

 そう言うとシャロンは袋から、白い小袋に入ったラベンダーのポプリを取り出し、シヴァに渡す。

「これ……良かったら寝る時にそばに置いておいて」

 そう言って、笑顔になる。シヴァはありがたくそのポプリを押しいただいた。シャロンが心配してくれたこと、手渡しされたことが素直に嬉しかった。

「さあ、シャロン様。お茶を飲んだらもう一度、能力の使い方を、やってみましょう」

「うん。ありがとうシヴァ」

 シャロンの顔がぱっと明るくなり微笑む。

 シヴァは少し切なくなりながら、それを押し隠して笑い返した。

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