46 あなたが私にくれたもの
「最近、髪を束ねているんだな」
「うん」
アルクトゥールスに言われてシャロンは微笑む。顔周りの髪を束ねて薄菫色のバレッタで留めている。街でアルクトゥールスから贈られたバレッタをシャロンは愛用していた。初めてアルクトゥールスから贈られたものでもあるし、可愛らしい鼈甲細工も気に入っていた。
ふたりで中庭を散歩していた。陽射しはやわらかく降り注いでいる。
「……他にバレッタは持っていないのか?」
そう尋ねられて、シャロンは頷く。レアルでは髪を束ねることはなかった。ストレートの白銀の髪は風に流されるまま腰下まで伸ばしている。
「そう言えば、レアルの民の髪はお守りになるんでしょう? 高値で取引されると聞いたわ」
「そうだな。おまえのような白銀の髪は、出回ることはまずないだろうな」
そう言われてシャロンは考え込む。
「良かったら、私の髪を切ろうか? そしたら孤児院にももっと寄付ができるだろうし」
そう言うと、アルクトゥールスはぎょっとしたような顔をする。彼は大きく手を振った。
「いやいや! その為に切るとかしなくて良いから。おまえからも公費からも出してもらって十分助かってる」
「そう……?」
良い考えだと思ったけれど、とシャロンはつぶやく。アルクトゥールスがため息をついた。
「本当に十分だから。それより、髪がほつれてるぞ」
「え。本当に?」
シャロンはバレッタを外す。はらりと美しい白銀の髪が肩に落ちた。
鏡がないと纏めづらいと思っていると、アルクトゥールスが、バレッタを寄越すよう手を出した。
「貸してみろ。やってやる」
シャロンは少し戸惑ってから、薄菫色のバレッタをアルクトゥールスに渡した。
アルクトゥールスの大きな手がシャロンの髪を梳く。シャロンの鼓動が速くなる。彼は丁寧にシャロンの髪をバレッタで纏めた。アルクトゥールスの手がそっと離れた。
「……できたぞ」
「ありがとう……」
アルクトゥールスの手が離れてしまったことをシャロンは残念に思う。
「今度、もっと良い鼈甲細工のバレッタを買いに行くか?」
「ううん。これがいい」
アルクトゥールスの申し出にシャロンは首を振る。初めてアルクトゥールスから贈られたこのバレッタがあれば良い。そう考えてシャロンは笑った。
「そうか……? じゃあ、また、一緒に街に行くか」
「うん!」
シャロンは嬉しくなり頷いた。そんなシャロンを見て、アルクトゥールスも笑う。
自然と手を繋ぐ。
優しい午後のひと時。シャロンは幸せだと心から思ったのだった。




