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42 アルクの自覚

「どうしたんだ、アルク。急に訪ねてきたと思ったら黙り込んで」

 アルファルドは決裁のための書面を脇に置いて、弟を見る。弟は先ほどからなにか言いたそうにしては、黙り込むのを繰り返している。アルファルドは首を傾げた。こんな弟の様子は見たことがない。

「……シャロン殿となにかあったのか?」

「……まあ」

「良いことか? それとも悪いことか?」

 そう尋ねると、わからない……と返答がある。これはきちんと話を聞く必要がある、とアルファルドは人払いをした。使用人たちが頭を下げながら下がって、部屋の中には兄弟2人だけになった。

「これで2人きりだ。何があったのか、話してみろ」

「……手を」

「手を?」

「手を、出してしまった……」

 そう聞いて、何を言っているんだろうと思う。

手を出すもなにも、夫婦なのだから当たり前のことではないのか、と考えて、まさかという考えが過る。

「まさか、手を上げたとか言うんじゃないだろうな?」

「まさか……!」

「だろうな」

 この弟に限って、それはないだろうとアルファルドも思う。それならば残るはーー。

「まさかとは思うが、なにもなかったのか……その、ふたりの間に……」

「……」

 憮然とした表情、返答がない短い間。アルファルドは深いため息を落とした。

「レアルとの友好のために嫁いできてくれたのに、なにをやっているんだ……」

「……お互い、好きでそうなった訳ではないだろう。兄上がそう決めたんじゃないか」

「……でも、手を出したのだろう?」

 その言葉にアルクトゥールスが言葉に詰まる。

「手を出したのなら、好意があるからじゃないのか? それともなんとなくか?」

「俺は……」

 アルクトゥールスの言葉を遮ってアルファルドは言葉を続ける。

「それはどちらでも良い。だが、わかっているのか? これは国と国との繋がりの話でもある。おまえがシャロン殿と関係をもたないのなら、父上に奪われてもおかしくはないんだぞ」

 その言葉にアルクトゥールスははっと顔を上げた。

「母上のことをおまえに任せてしまってすまないと思っている。だが、私もリラ以外に妻を娶るつもりがない。おまえが嫌というのなら、父上がシャロン殿を強引に奪うだろう。それをわかっているのか?」

「……わかっていなかった……かもしれない」

 いや、本当は心の底ではこのままではいけないと言うことはわかっていた。けれどシャロンの「お互いその気になったら」という言葉に、甘えて縛られていた。もっとゆっくりと考えても良い、考えるべきだと思っていたのかもしれない。

 父親にシャロンを奪われる、その考えは真実味を帯びてアルクトゥールスを襲った。あの父親ならば、やりかねない。

「それは……嫌だ」

 自分はどういうつもりで、シャロンに口づけをしたのだろうと思う。愛しいと思ったから、したのではないだろうか。そう思って口元を覆う。甘く、やわらかな唇の感触はまだ、強く残っている。

「嫌なんだな? それならきちんとシャロン殿に自分の気持ちを話せ」

「わかっている」

 アルファルドに呆れたように言われて、アルクトゥールスは頷く。

 自分の気持ちを正直に伝えようと、アルクトゥールスは決意した。

 

 

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