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40/66

40 共寝

 シャロンがいたことにレグルスは喜び、お茶を飲みながらお喋りをして、庭をゆっくりと3人で散歩して帰ってきた。宮に帰ってくると夕刻を過ぎていた。門番に尋ねるとまだアルクトゥールスは中から出ていないらしい。

 シャロンはそっと、宮の中へと入った。薄暗い部屋のなかには、灯りもついていない。

 シャロンは小さな蝋燭をつけた。部屋の中が蝋燭の灯りでわずかに明るくなる。

 見るとアルクトゥールスは、掛布にくるまってすやすやと眠っている。シャロンは彼の側にちかよった。いつも背を向けて寝ているから、寝顔を見るのは初めてかもしれないと思う。思ったよりも長い睫毛が影を落とし、規則正しい寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。

 シャロンはいけないと思いつつも、その寝顔をまじまじと見つめた。眠っている彼は無防備で、起きている時よりも稚い気がした。

 けれどすぐに、疲れて眠っているのだと言うことを思い出して申し訳ない気持ちになった。

 そっと手を伸ばして髪を撫でる。艷やかな髪は、手に優しい手触りを残す。

 もっと寝顔を見たくなって、アルクトゥールスの隣へ寝そべってみる。心臓が早鐘を打つ。顔が近い。吐息までも聞こえるほどに。

 いつもこんな風に寝顔を見て眠れたら良いのに……そんな風に考えている自分がいる。

 その時、アルクトゥールスが目を開けた。視線が合ってシャロンは身動ぎもできない。アルクトゥールスは手を伸ばしてくると、大丈夫か? とシャロンの手を握って尋ねた。

「起こしてごめんなさい。だ、大丈夫」

 「……良かった」

 そのままシャロンの腕を掴んで再び眠ってしまう。手を繋いて寝るのは慣れている。けれどそれは、背を向けた姿勢でだ。

 こんな風にお互い向き合って眠ったことなどない。そっと手を離そうとしたが、起こすのを憚られて無理に離すことは諦めた。シヴァのところでお菓子もご馳走になったしお腹は空いていない。

 よし、寝ようとシャロンは思った。こんな日は2度と訪れないかもしれないのなら、この偶然の幸せを享受しようと思ったのだった。

 

 夜中にふと目が覚めた。部屋の中は僅かな蝋燭の灯りが照らしているだけでぼんやりとしか見えない。ふと自分の腕が痺れているのを感じて視線を落とす。そして次の瞬間、固まった。

 掴んでいたのはシャロンの腕で、彼女は腕を掴まれたまま、自分の胸の辺りで身を丸めて眠っていた。見れば夜着にも着替えず掛布もかけず、まるで胎児のように身を丸めていた。

 慌てて手を離し、自分の掛布を掛けてやると急いで離れた。

 顔が赤くなるのを感じて、口元に手をやる。一体、何故、こんな状態になったのだろうと思うが、自分が手を握っていたのを見るに、寝ぼけて彼女の動きを止めてしまったのだろうと推察する。自分を起こさないようにした結果なのだろうと、彼女の性格から考えた。

 そっと覗き込んで見ると、シャロンはすやすやと気持ちよさそうに眠っている。長い睫毛が影を落とし、形の良い唇がほんの少し開いている。長く美しい白銀の髪が、彼女の頬に一筋落ちていた。起こさないようにそっと、その髪を払ってやる。

 いつも背を向けて寝ているから、シャロンの寝顔を正面から見たのは初めてだと思う。安心しきっているように見える彼女を見て、複雑な気持ちになる。

 嫁さえ要らないと思っていたところに、レアルから嫁を貰うようにアルファルドから言われた。両親を見ていれば結婚に夢など抱けなかったし、こちらを蛮族と見做している国からの嫁なんて要るはずもなかった。

 けれど、嫁いできたシャロンは想像した女性とは全く違った。こちらを見下げることもしないし、控えめだけれど芯が通っていた。良く笑うようにもなったし、いろんな話もした。自分の母親を父親から守ってくれて、青痣だらけになってーー。

 シャロンは自分のことをどう思っているのだろうとふと思う。お互いがその気になるまでは白い結婚で居ようと言ってくれた。正直、その申し出はありがたかった。でも今はーー。

 手の甲をシャロンの頬に当てる。熱がないことにほっとして、彼女の方を向いて横になった。

 手を握ると、その手は温かい。

 卑怯だと、自分でも思う。でも今日だけは。夜中に起きなかった振りをしようと、彼女の寝顔を見ながら思う。

 鼓動がやけにうるさくて、アルクトゥールスは無理やり目を閉じた。


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