4 シャロンとリエッタ
シャロンは青いドレスに着替えるとリエッタと一緒に、自分の宮から外へ出た。
点在する白い宮殿に風に吹かれる木々、官吏服に身を包んだ官吏たち。自分とリエッタを見れば、皆が礼をとって道を開ける。
レアルには女性の官吏も多いし、髪の色も多種多様だ。その中で選ばれた髪色だけの者が、この王宮に住んでいる。
レアルでは白銀、青銀、白、と青の髪色の者は生まれてすぐに王宮に召し上げられる。
髪の色で潜在脳力も地位も決まるのだ。また、扱える特殊能力も、文官、武官で変わってくる。
レアルの民が、奇跡の民と呼ばれる所以だ。
シャロンとリエッタは天主に次ぐ高位の妃候補だった。
「シャロン……泣いてるの?」
リエッタに言われ、シャロンは自分がぽろぽろと涙を零していたのに気がついた。
「私……」
懐かしかった。景色のなにもかもが。1年離れていただけだというのに、現実感がないほどに美しく見えた。
リエッタはハンカチを取り出してシャロンの涙を拭いた。
「一体、どうしたの? さっきから様子がおかしいわよ。嫌な夢でも見たの?」
「夢……」
あれは夢ではない。現実だ。私は1度死んで、回帰したのだ。夫だった人の涙の温かさを思い出す。彼は今、遥か彼方のアルーアにいる。
「さあ、天主様にお会いしたら、元気も出るわよ。行きましょう」
リエッタはシャロンの腕を組んで歩き出した。
薔薇のアーチをくぐり、薔薇園の中へたどり着く。色とりどりの薔薇が咲き乱れている。控えていた官吏たちがシャロンとリエッタに礼をとり、中へと案内をした。
しばらく歩くと、四阿があり、白いクロスのテーブルセットが見えた。その脇に天主が立っていた。
「シャロン、リエッタ。よく来たね」
天主の蕩けるような優しい美声がする。
シャロンはその姿を見て胸がいっぱいになった。
鮮やかな金の髪に蒼天の瞳。人形のように端正すぎるほど、端正で怜悧な顔立ち。
金の髪はこの世に2人といない。このレアルを統べる証ーー。
1年振りに会い、懐かしさに胸がいっぱいになる。アルーアにいる頃には、何度もお会いしたいと思ったし、シャロンが物心つく前から優しくしてくれた方だった。
「シャロン?」
涙が溢れてくる。自分でも止めようと思っても止まらない。
「ごめんなさい、天さま」
天さまーー自分にだけ許された呼称。幼い頃の癖が抜けず、天主も許してくれていた。
「シャロン、夢を見たみたいなんです」
リエッタが言う。シャロンは首を振った。
「ごめんなさい、天さま、リエッタ。なんでもないの」
椅子を引かれ、シャロンとリエッタは座った。
天主とシャロンたちに、官吏が紅茶を淹れてくれる。ケーキやクッキーが並べられた。
「妃教育は順調か?」
そう尋ねられてリエッタが、はい! と元気よく返事をした。
シャロンも頷く。
「どちらが、私の花嫁になるのかはまだわからない。ひとりにはアルーアへと嫁いでもらはなければならない。許してくれ」
「……はい」
「はい」
リエッタが沈んだ声で返事をするのを、シャロンは黙って聞いた。
シャロンは回帰前の花嫁選びを思い出していた。