39 あなたを守るためにも
シャロンが寝ついてから日々が過ぎていった。1週間後にはまだ痣は薄く残るものの、全快の診断結果をアルクトゥールスが出した。ほぼ、不眠不休だった彼は、少しだけ寝かせてくれと、宮で崩れるように眠ってしまった。
そこでシャロンはシヴァの宮を訪ねていた。時刻は昼過ぎ。急な訪問にもシヴァは、嫌な顔ひとつせず温かく迎え入れてくれた。
「全快おめでとうございます。本当に、良かった」
「お見舞いもありがとうシヴァ。嬉しかったわ」
「今日は、どんなご用事ですか?」
小首を傾げる彼に、シャロンはあのね、と言葉を続ける。
「能力の使い方を教えてほしいの」
「シャロン様……」
シャロンは妃候補だった。マナーやダンス、歴史に語学と一通り習ったが、シヴァのように能力の使い方を覚えてはいない。それは守られるべき妃には必要のない力だったからだ。
「……だけど、またあんな事があるかもしれない。少しでも能力を使えるようになりたいの」
「前にも言いましたが僕は文官です。武官が使うような強い力は使えないし、シャロン様にどんな能力があるのか知ることもできません」
王宮に召された子供達はその養い親の元、適性に応じて、文官院、武官院へと分かれて力を学ぶ。
「無理なお願いなのはわかっているの。でも時間のある時で良いから能力の使い方を教えてほしいの」
自分には回帰能力があるのはわかっている。偶然にだが過去への介入もできた。けれどその能力は一度きりのものかもしれないし、もしもの時のために自分の身は自分で守れるようになりたかった。そして何より、アルクトゥールスのことも守りたい。
シヴァは、はあ、とため息をつく。
「どうしてシャロン様ばかりそんなに苦労をしないといけないんですか。リエッタ様は皆に守られて暮らしているというのに」
「それは……」
自分で選んだからだ。もう一度、アルクトゥールスと会いたかったから。やり直したかったからだ。
しかしそれをいう事はできず、シャロンはうつむく。そんなシャロンの様子を見ていたシヴァはおおきくため息をつく。
「わかりました。僕が教えられることは限られていると思いますが、やってみましょう」
「シヴァ…! ありがとう!」
「でも僕にはシャロン様の適性も、どんな能力があるかも知ることはできません。できるのは、能力を使う時にどうしているか……それだけですよ」
「それで良いの。本当に、ありがとう!」
シャロンは深く頭を下げた。
「やめてください! 本当にできるかもわからないのに。では週に1度、僕のこの宮に来てください。昼過ぎのこの時間なら宮にいますから」
「わかったわ。本当にありがとう」
そこまで話した時に、扉の向こうから澄んだ子どもの声が聞こえた。
「シヴァ。遊ぼうー!」
レグルスだ。シャロンはくすりと笑みを漏らす。
「レグルス様がこられるのはいつも急ですから……」
シヴァも苦笑する。シヴァはレグルスを迎えるために立ち上がった。扉を開くとレグルスが飛び込んでくる。
「シヴァ、遊ぼう! あれ……シャロン! もう大丈夫!? 痛くない?」
部屋に入るなりシャロンを見つけたレグルスは、シャロンに駆け寄り心配そうに見上げた。シャロンは、視線を同じくし、レグルスに笑いかけた。
「うん。もう平気よ。お見舞いあリがとう、レグルス」
「……良かったぁ……」
今にも泣き出しそうな声でそう言うと、シャロンに抱きつく。
シャロンはその頭をそっと撫でた。心配かけてごめんなさいね、と言うとレグルスはううん、と首を振る。
「レグルス様も、心配していらっしゃいましたから」
シヴァの言葉に胸が温かくなる。シャロンは、しばらく、レグルスの頭を撫でていた。
「お茶にしましょうか。アルファルド様に甘いお菓子をいただいたので」
シヴァの言葉に、シャロンはあリがとうと微笑んだ。




