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38 櫟の樹の下で

「アルク、これ長い間、あリがとう。返すわ」

 シャロンは青いペンダントを大事そうに両手で抱え、アルクトゥールスに差し出した。体もだいぶ元通りになり、もうシャロンには必要はない。しかし、アルクトゥールスは、少し考え込むような素振りを見せる。

 アルクトゥールスと庭を散策していた。気持ちの良い風が吹いては、2人の髪をそよそよと靡かせた。起きられるようになったシャロンに、アルクトゥールスが気晴らしにと誘ったのだ。

 くぬぎの木の下には、木漏れ日が零れている。

「もう少し、持っていてはくれないか。まだ、痣は残っているだろう」

 その声に、シャロンはゆるゆると頭を振る。

 自分の選択で未来が変わっている。いつ何時、アルクトゥールスにも危険が及ぶかもわからない。もしも斬りかかられたら、この石があるのとないとでは違うだろう。未来が変わって行き、アルクトゥールスと親しくなれるのは嬉しい。それと同時に、もしも万が一のことが彼にあったらと思うと居ても立ってもいられなくなる。

 シャロンはアルクトゥールスの手を取り、そっとペンダントを返した。

「私はもう大丈夫。アルクにこそ、持っていて欲しいの。お願い」

 真剣な表情で頼むと、彼は少し逡巡しながらもわかった、と頷いてくれた。そのことにほっとして、シャロンは笑顔になる。

「私がつけてあげる」

「……おまえにできるのか?」

「その不器用扱いするの、そろそろやめて?」

 アルクトゥールスは笑いながら、ペンダントをシャロンに渡した。膝をついて屈んだ姿勢になる。

 彼の背中はとても広くて、そして無防備だった。シャロンは少しドキドキしながら、チェーンを彼の首にかけた。艶やかな彼の髪がすぐ前にあって、思わず撫でたくなる衝動にかられたのを押さえる。

「……ん。固い」

 チェーンの留め具が固くてなかなか開かない。

「大丈夫か?」

「うん……大丈夫……たぶん」

 なんとか留め具を外し、アルクトゥールスの首にかける。

「ほら、できたでしょう?」

 そう言うと、彼はくすりと笑った。

「ああ。おまえにしては上出来じゃないか?」

「また……! そういうことを言う……!」

「はは……悪かった」

 アルクトゥールスはそう言って笑うと、シャロンの頬に手を当てた。

「……ありがとうな」

 そう、しみじみとつぶやく。

 シャロンは思う。このひとを守るためにも能力が使えるようになりたい、と。どんな脅威からも彼を守りたいと。

「どういたしまして」

 そんな想いはおくびにも出さずにシャロンは笑う。

 けれど、能力を使えるようになりたい、という気持ちは、シャロンの中で静かに強く、波紋のように広がっていった。

 

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