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33/66

33 それぞれの思い

「ーーゆめ……?」

 ぼんやりと目を開けると、辺りはまだまだ薄暗い。瞬きをすると、霞んでいた景色が段々と鮮明になる。すぐ隣で、はっと身動ぎをする音がした。シャロンはゆるゆると目を向ける。

「目が覚めたか……! 大丈夫か!?」

 覗き込んてくる顔と、夢の中の男の子の顔が重なる。シャロンは手を伸ばして、その艷やかな髪を撫でた。

「……泣かないで」

「……泣いてない。だけど、本当に……すまない」

 振り絞るような謝罪の声に、シャロンはゆるゆると首を振る。そして痛みに顔を顰めた。見れば自分の体のそこかしこが痛み、けれど丁寧に治療されていた。

「包帯……巻いてくれたのアルク……?」

「ああ。痛むだろう。大丈夫か……?」

「うん……頑張ったんだけど……ごめんね」

「ばか、なんでおまえが謝るんだ。謝るのは俺の方だ。本当に……すまなかった」

 アルクトゥールスは、シャロンの手を握る。じんわりとした温かさが手のひらから伝わってくる。

「アルクのせいじゃないわ。お義母様は大丈夫?」

「ああ。大丈夫じゃないのはおまえの方だ」

その言い方にくすりと笑う。まだ頭が働かない。

 もう少し眠りたかった。

「ごめん……アルク。もう少しだけ寝させて……」

 そう言ってシャロンは再び意識を手放した。手のぬくもりが心からの安堵をもたらした。


 翌朝、昼も近くなった頃に起きると、やはり側にアルクトゥールスがいた。ほっとしたようにシャロンを見ると、てきぱきと薬草と包帯を変える。薬草の匂いに辟易しながらも、礼を述べると彼は頭を振った。

「礼を言うのも詫びを言うのもこちらの方だ。傷は跡には残らないが、しばらくは痛むと思う。本当に、無理しないでくれ」

「うん……わかった」

 真剣な表情で頼まれれば嫌とは言えない。痛む体を起こすのを手伝ってもらって、シャロンは水を飲んだ。喉がからからに渇いていたせいか、ただの水なのにとても甘く感じた。

 そして自分の首から下っているペンダントに気づく。青い色の石のそれは、アルーアの王子の証だと教えられたペンダントだった。

「アルク、これ……」

「ああ。癒やしの効能があると言ったろう。しばらく、付けていてくれ」

「でも、こんな大事な物……」

 そう逡巡したその時、扉の向こうから声がかかる。

「シャロン様、少しよろしいですか?」

「シヴァだわ。何かしら?」

 アルクトゥールスを見ると、彼は気まずそうに目を逸らした。

「アルク、入ってもらっても良い?」

「ああ。体は寝てくれればな」

 シヴァに失礼ではないかと思ったが、確かに体が痛むのでシャロンはアルクトゥールスの手を借りてもう一度横になった。

「どうぞ」

 声をかけると扉が開いて、シヴァが部屋に入ってくる。

「俺は席を外そう。シヴァ、あまり長話はしないでやってくれ」

「わかりました」

 シヴァと入れ替わるようにアルクトゥールスが出て行った。シャロンはどうしたのかと、その背を見送る。

「シャロン様、お加減はいかがですか?」

「寝たままでごめんなさいね、シヴァ。痛みはあるけど、もう平気よ」

「こんなに怪我だらけになって……どこが平気なんですか……?」

 シヴァの声の底に怒りがあるのを感じて、シャロンは彼を見つめた。

 シヴァは両手を固く握りしめ俯いている。

「シヴァ……?」

「シャロン様、僕は、レアルにこのことを報告します」

 きっぱりと言い切られて、シャロンは言葉を失う。止めなくては、と反射的に体を起こし、痛みに顔を顰めた。

「シャロン様! 寝ていなくてはだめです!」

 シャロンはシヴァにしがみつくようにして上体を起こした。お願いよ、と懇願する。

「やめて、シヴァ。お願いよ……!」

「どうしてですか!?」

 シヴァの声が大きくなる。耐えられないというように、彼は目を逸らした。

「今回も……前回もそうです。これでシャロン様が危ないめにあったのは2度目だ。前回は目をつぶりましたが、今回はそうはいきません!」

「今回は、アルクのお母様は正気を失っているわ。正気ではないのよ。悪意は無いの! お願い、わかって……!」

「悪意がなければ何をしても良いわけではありません。僕にはシャロン様を守る義務があります! 一応、シャロン様にお伝えしてからと思ったまでです。僕の決心は変わりません!」

「シヴァ。私はレアルとアルーアの友好のためにここに嫁いだのよ。レアルかアルーアかといえば、もうアルーアの人間なの。だからお願い、アルーアの不利益になるようなことはしないで」

 お願いよ……と、シャロンはシヴァに縋りながら、弱々しくつぶやく。少しの沈黙が部屋に下りた。

「……わかりました。報告は、しません」

「……ありがとう、シヴァ」

 シャロンはほっとため息を落とした。だから気づかなかった。シヴァが、ぎゅっと唇を引き結んだその表情にーー。






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