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30 ラベンダー畑

 明くる日、シャロンはリラに誘われて一緒にラベンダーを摘んでいた。まだ花が咲く前の丸い紫の蕾だ。この時期に摘んで乾燥させるとポプリにできるらしい。

 他愛もないお喋りをとりとめなくしながら、ラベンダーを摘んだ。

 ふと、リラがシャロンを見て微笑んだ。

「アルク様と仲がよろしくて安心しました。街は楽しかったですか?」

「はい。とても」

 シャロンはなんと言って良いのかわからず、曖昧に微笑んだ。

 アルクトゥールスとの仲は良いと思う。けれどもまだ白い結婚のままだ。なんと返事をして良いのか少し戸惑ったのだ。

「少し、休憩にしましょうか」

「はい」

 リラと一緒に木陰へと並んで座った。気持ちの良い風が吹いている。目の前はラベンダーの花畑。風に吹かれて揺れる様は幻想的に美しかった。

「私ね、本当は王への貢物だったんです」

 ぽつりとリラが零すように言う。シャロンは驚いてリラを見つめた。リラは真っ直ぐラベンダー畑を見つめたまま言葉を続ける。

「父の政略のために王に差し出されたのですけど、お手つきになる前にアルファルドと出会って惹かれ合いました。許されない恋だと思ったし叶わない恋だとも思ったけれど、アルファルドが王に願い出てくれて……王は私にそんなに興味がなかったのでしょうね。アルファルドと結婚することができました」

「リラ様……」

 リラはゆっくりと視線をシャロンに向けて微笑む。

「レグルスも生まれて、私いま、とても幸せなんです。こんな日が来るとは思っていませんでした。シャロン様とも義理の姉妹になれて、こうやって仲良くしていただいて、とても嬉しいんです」

「それは……私もです。リラ様」

「シャロン様は、アルク様がお好きですか?」

 そう尋ねられシャロンはリラを見た。リラは優しい眼差しでシャロンを見ていた。シャロンは頷く。

「はい……。好きです」

「良かったです。遠い国から嫁いでいらして、好きになる。こんなことは稀だと思うんです。きっと深い御縁があったのでしょうね。その気持ちを忘れないでください」

 シャロンはしっかりと頷いた。本当にその通りだと思う。

「アルク様は少し不器用なところがあるけれど、優しい方です。どうかその手を離さないでやってくださいね」

 そう言って微笑まれ、シャロンも微笑み返す。リラの手をそっと取って握った。

「はい……必ず。お約束します」

「良かった」

 ふたりで微笑んだところで、ぱたぱたと軽い足音が聞こえた。視線を向けると、レグルスが駆けてくる。

「母上! 勉強終わりました。僕も一緒に摘んでもいいー?」

「レグルス、いいわよ。いらっしゃい」

 リラの広げた手の中に、レグルスが飛び込んでくる。嬉しそうに母親の腕の中に収まり、にっこりと笑う。

 シャロンは、そんなふたりを微笑ましく眺めた。

 いつも穏やかに微笑んでいる義姉。そんな過去があるとは思いもよらなかった。芯の強い人なのだな、と思うし、アルファルドとの恋は物語のようだと思った。

 けれど実際はたいへんな道のりだったのだろうとも思う。

 リラはアルファルドとレグルスを心から大切にしている。私もそう在りたいとシャロンはアルクトゥールスを思ったのだった。

 風が吹いてラベンダーの花を揺らす。けれどその花は散ることがなかった。

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