3 回帰
「私、死んだはずじゃあ……」
目を開けたらそこは白いベッドだった。身を起こしてみる。清潔なシーツに上掛け。天蓋付きの寝台は見知ったものだ。
「ここは……でも、まさか」
「何言ってるの、シャロン」
「リエッタ……?」
扉から覗き込んでいるのは、リエッタだ。自分と同じ16歳で白銀の髪。違うのは瞳の色。
シャロンの瞳は菫色、リエッタは琥珀色をしていた。瑞々しく甘やかな美貌の少女だ。
どうして彼女がここに、と思うまもなく、彼女は弾かれるようにベッドの枕もとへ駆けてきた。その既視感。
彼女は頬を染めながら話し出した。
「どちらが天主様の花嫁になれるのかしら。どちらが選ばれても恨みっこ無しよ……でも、異郷に嫁ぐのは……嫌だわ」
「待って……リエッタ……。異郷に嫁ぐのは……」
愕然とした。時間が巻き戻っている? まだここは故郷のレアルで、天主の花嫁選びの前だというのか。見渡せば調度品もなにもかもが、懐かしく1年前の自分の部屋のままだ。
異郷で過ごした1年間を思い出していた。馴染めない異郷、夫との距離、孤独な日々、そして最後の舅の嫌な思い出にぞわりと悪寒がして、首を竦めた。
「どうしたの? シャロン」
きょとんとこちらを見てくるリエッタに、なんでもないわと笑う。
時が戻った。私は生きている。私には回帰能力があるーー。
「さあ、きっと天主様もお待ちになっている
わ。早く着替えて行きましょうよ。何色のドレスにする?」
記憶と寸分違わぬリエッタの言葉。少し舌足らずな朗らかなしゃべり方。あの時はそう思わなかったけれど、彼女はどうしてこんなに、はしゃいでいるのだろう。選ばれなかった方は異郷へと、嫁ぐことになるというのに。もう2度とこの懐かしいレアルには戻ってこられないというのに。
1年前のあの頃、自分は毎日気持ちが沈んでいた気がする。
違和感が脳裏を駆け巡った。そしてある答えにたどり着く。リエッタは、己が異郷の花嫁になるとは思っていないのではないか。なんらかの方法で、自分が天主様の花嫁になると知っているのだ。
頭がくらくらする。シャロンは顔を覆った。もしそれが本当なら、これは出来レースだ。なんらかの不正が行われていたのだ。
リエッタがクローゼットを開けてドレスを選んでいる。その後ろ姿をシャロンはじっと眺めた。