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27 アルーアという国

スリだ! と声が上がったのはその時だった。アルクトゥールスとシャロンも声の方を見る。見れば雑踏の中、走ってくる子どもが目についた。

アルクトゥールスが立ち塞がり、通り抜けようとする子どもの腕を引く。

「なにするんだよ! 離せよ!」

「そう言われてもな。すった物を出せ」

 そんなやり取りをしているうちに、追いかけてきた男が荒い息を吐きながらやってきた。

「助かった……ありがとう兄さん」

「すられたのはこれか?」

 子どもの手から財布を取り出し、アルクトゥールスは男に渡す。

「あっ! なにすんだよ!」

「ありがとう。このガキ……!!」

「やめて……!!」

 子どもと男の声が合わさる。男が拳を振り上げて子どもはぎゅっと目をつぶる。シャロンも見ていられなくなって口を挟んだ時、アルクトゥールスが男の拳から子どもを遠ざけた。

「財布が戻ってきたんだから良いだろう。今回は見逃してやってくれ」

「あんたがそういうなら……」

 男は渋々といった感で引き下がる。2度目はないからな、と子どもに悪態をつき雑踏のなかに戻って行った。アルクトゥールスはため息をつくと、子どもに向き直る。

「おまえ、ちょっとついて来い」

「なんだよ! 離せよ! 引っ張るなよ!」

「シャロン、悪い。ちょっと付き合ってくれ。どうせ行こうと思っていたんだ」

「う、うん…!」

 シャロンは頷いて、子どもを引きずるアルクトゥールスの後を追った。

「ねぇ、あなた。スリなんてしていたら、危ないわ」

「オレだってしたくてしてるんじゃあねぇや! あんたらと違ってその日の食い物にも事欠くガキなんざ、そこら辺にたくさんいる! 街に出て気が付かなかったのか!」

 痛いところを突かれてシャロンは、押し黙った。街に出て露店は賑やかだったけれど、確かに目つきの悪い薄汚れた子供たちが多いことには気づいていた。石畳も王宮から遠ざかるほど、崩れて合間から草が生えている。レアルでは見られなかった光景だ。アルクトゥールスと出かけることに気持ちが舞い上がっていた自分を恥じた。

「ごめんなさい……」

「おまえが謝ることじゃない」

 アルクトゥールスがシャロンの頭をぽんぽんと叩く。それでも罪悪感は消えることがなかった。


 

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